Piece11



 小さな頭には白髪が薄く残り、顔には無数の皺が刻まれている。痩せた顔に若さはなく、年相応かそれ以上に見えるものの、青い双眸だけはやけに生気に満ち溢れ、ぎらぎらとした輝きを放っていた。
 体を上等なスーツで包み、優雅にお茶など飲んでいるが、彼の後ろにある機械的な背もたれがその姿に異質さを与える。
 小柄な体に反して大きなそれは、もはや彼の体の一部と化した車椅子のものだった。とは言え、大きなだけで車椅子である以上の機能はなく、しかし、どこか不気味ささえ感じさせる雰囲気をその車椅子は持っていた。
 古いからか、造りがそう見えるからか、あるいはデイディウスにまつわる噂がそう思わせるのか。
──まあ、どうでもいいが。
 エインスはテーブルに肘を置いて、頬杖をついた。
 それを見咎めたディレゴが顔をしかめる。
「行儀が悪い、エインス」
 エインスはディレゴをねめつけた。
「人間のガキのしつけをここでやってんじゃねえよ。てめえはてめえの仕事しろっての」
 ディレゴは溜め息をつき、ちらりとデイディウスを見てから手元の資料に視線を落とす。デイディウスは我関せずといった風に、茶菓子をつまんでいた。
「……今回の襲撃でいくつか、以前とは情報を修正する部分がある」
「以前ってのは?」
「俺たちが生まれる前の話だ。茶々を入れるのはいいけど、馬鹿だと思われるのはお前だよ」
 ドゥレイの言葉には容赦がない。そして正しいからこそエインスには返す言葉もなく、舌打ちをするだけに止まった。
 ささやかな冷戦の終了に詰めていた息を吐き出し、ディレゴは続ける。
「まず、基礎的な能力の減退が見られた。知性、言語、体力、戦闘能力、彼を構成するほぼ全ての能力が想像以上に減退している。……まあ、これは前の一件が絡んでいるんだろうが、今回の件で減退した能力の回復が見られないところを見ると、これ以上の回復はないと思っていいだろう」
「だが、どれも学べば身に付くものだ。一時的な減退と思った方がいいんじゃないのか」
 ネウンが反論すると、ディレゴは頭を振る。
「そう思って予想を立てていたものが、君たちが持ってきたデータと随分かけ離れている。確かに学習すれば緩やかにだが回復するものだし、今日に至るまでそれだけの時間はあっただろう。元通りとまではいかなくとも、君たちと拮抗するぐらいの回復を見込んでいた」
 言いながら、ディレゴは微かに顔をしかめた。三人がサムナとの戦闘データを携えて戻り、そのデータを目にした時と同じ顔だ、とドゥレイは思った。

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