060.召し上がれ(5)


「ああ、ごめんね。今、ちょっと友達と会っててさ。うん……うん、ああそう。明後日には行けるけど……」

 これまでの態度とは打って変わった調子で話しつつ、ガルベリオはちらりと耀の手持ちの鞄を見て続けた。

「ワインと何かお菓子でもお土産に持ってくよ。はい、じゃあね。どうも」

 相手が電話を切るのを待って、ガルベリオも切る。イーレイリオが素早く問うた。

「随分、幼い声だったな。お前の新しい専任か?」

「違う違う。日本の友達。ま、色々あったのよ、俺にも」

「連れてくれば良かったじゃない。普通に参加するぶんにはただのパーティーだしさ。ガルベリオの友達なら、誰も手は出さないよ」

 ヴェルポーリオが気楽に言ってのけると、ガルベリオは手を振って「無理」と答えた。

「あっち、未成年だから。いやね、俺も連れてくれば喜ぶだろうなとは思ったけどさ、さすがに酒の席に未成年はまずいだろう。向こうの祖父さんにも心配かけそうだし」

「未成年……」

 耀は自身の聴覚の鋭さに自信を持った。あの声はどう見積もっても、義務教育中の子供の声に近い。

「専任にするつもりはないの?」

 ナーティオが不思議そうに聞く。ガルベリオが専任を失ってから、もう数十年以上経とうとしていた。乾きは相当なはずである。

 だが、ガルベリオは笑って答えた。

「あの子とは友達がいいよ。それに日本のコンビニってのも面白いからな。お前、本当に便利な国に住んでるよな、耀」

 話をふられた耀は頭をかきつつ、そういえば、と思い出して聞いてみた。

「俺の鞄にワインが入ってるって、よくわかったな」

「匂いだよ、匂い。でもこっちのものじゃねえな。日本の?」

「ヴェルポーリオが買うとかぬかしやがったからな。それで結局、荷物持ちは俺だ。一本いるか?」

「そのつもりで言ったんだよ。いや、お前は話がわかる」

「俺も鞄が軽くなっていいよ」

 横で抗議の声をあげるヴェルポーリオを尻目に、耀は鞄から一本取り出すと、ガルベリオに渡した。ワインを手にしたガルベリオは満足そうに笑い、近くに立っていた使用人を呼ぶと、自分の荷物と一緒にしておくように、と伝えて預けた。

 うやうやしく瓶を受け取って去っていく使用人を見ながら、ガルベリオは「あ」と声をあげてヴェルポーリオに声をかけた。

「そうだ。さっき、スクラウディオに会ったぞ」

 ワインのことを根に持っているのか、ヴェルポーリオは不満たらたらの顔つきで返す。

「どっちのさ」

「子供かお前……。人間の方だよ」

 それでも、ガルベリオの答えを聞いて思うところがあったのか、不平を押し込めた顔には微妙な表情が浮かんでいた。

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