057.コンビニ(6)
「まあ、もし、時間があるようだったら、お茶でも飲んでいくよう言いなさい」
「うん、ごめん」
大きな誤解と疑問を残したまま、祖父たちはコンビニの中へと戻った。後に残されたガルベリオと言えば、一体どんな顔をすればよいのかわからない。こんなことは初めての経験だ。
化け物でも捕食者でもない。「友達」という名前で呼ばれたのはまったくもって初めてだった。
「……すみません」
「…………友達ってなにさ」
「だって、それ以外になくて」
「友達なんていわれたの初めてなんだけど」
「友達いないんですか?……ああ、でもそっか」
ようやくガルベリオから離れた少女は、かなり失礼な理由でガルベリオの言い分に納得したようだ。解放された腕を振り回していると、少女がコンビニとガルベリオとを交互に見ながら提案する。
嫌な予感がした。
「一応、おじいちゃんも言ってたから、お茶飲んでいきますか?……多分、一杯くらいは飲んでいかないと納得してくれないと思うので」
「納得って」
いささかうんざりしながら聞くと、少女も申し訳なさそうに答える。
「そういう付き合いが大切だって考えなんです。でも、時間がないならいいんですけど」
ガルベリオは頭をかいてコンビニの方を見る。好奇心を隠せない客や彼女の祖父が、こちらをちらちら見ているのが窺えた。
「……紅茶ってある?」
溜め息混じりにそう問うと、どういうわけか少女は少しだけ嬉しそうな顔になる。
「こないだ、お中元で貰ったのがあるんです」
「おちゅうげん?何だそれ。……まあいいや、一杯だけな」
はい、と頷いた少女は自然な動作でガルベリオの手を引いた。まるで友達を家に案内するかのような気安さに面食らうが、自分の手よりはるかに小さな手は思ったより嫌なものではない。
「お中元知らないって、やっぱり外国の人なんですか」
「まあ、外国は外国かな。ヨーロッパの方」
間違ってはいない。少女は初めて、年頃の娘のような笑顔に好奇心を滲ませた。
「へえ、いいなあ」
ガルベリオはその顔を見て、思わず口許に笑みを浮かべる。
獲物以外の付き合いも、そう悪くない。
終り
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