057.コンビニ(4)
「悪いが俺はこの子の保護者でね。用件があるなら、まず俺を通してくれないと」
え、とガルベリオの背後に庇われた少女が嫌そうな声をあげた。
「別にお父さんになってほしいわけじゃないんですけど」
「……そういうのは後で言おうね」
「え、でも」
更に言い募ろうとする少女を、ガルベリオの足元で泣き叫ぶ男の声が一蹴する。びくりと肩を震わせた少女の頭を軽く叩き、静かに背後に下がらせた。視界の端で、彼女の祖父がどこかへ電話をかけていた。
「てめえ」
男たちに狂気と恐怖が滲む。しかし、悪態をついてはみたが、ガルベリオには敵わないと判断するだけの頭は持ち合わせているようだった。そこから一歩も動こうとしない。
大仰に溜め息をついて葉巻をくわえ、未だ喚く男の腹を蹴り飛ばす。おそろしく自然で無理のない動きだったにも関わらず、男はボーリングのボールよろしく、垣根を作る仲間を何人か吹き飛ばして、駐車スペースの端にある壁にぶつかってようやく止まった。
壁の下で横たわる体から微かに呻き声が聞こえ、ガルベリオは「お」と声を上げる。一瞬の出来事に固まってしまった男たちが、一斉に体をびくりとさせるのがわかった。
「運が良かったな。一人ぐらいいなくなってもいいだろと思ったんだが。どうする?もう何人かいなくなった方がお前らも動きやすいだろ。ん?」
日常会話のごとく、さらりととんでもない言葉が出てくる。ガルベリオにとっては確かにそれは日常だった。だが、目の前に展開する彼らには日常とは程遠い話だった。
じりじりと後ずさりし、後方の何人かが逃げ出したのをきっかけに、バイクや車に飛び乗って一目散に逃げ散る。その早さといったら来たとき以上のもので、壁の下に横たわる仲間のことなど気にも留めていないようだった。
あっという間に静かになったコンビニ前で、ガルベリオは美味しそうに葉巻を吸い、先刻蹴飛ばした男を見やる。
「顎の一つぐらい外しといた方がいいか……」
あの手の類は報復に来る可能性がある。その芽を潰すには徹底的に叩く必要があった。
だが、行こうとしたガルベリオの腕を、弱く引っ張る力があった。
「……なによ」
少女が震えながらも、ガルベリオを離すまいとしている。
「もう、いいです。だからこれ以上はやめて下さい」
「甘いなあ。あいつらまた来るよ?情けかけたって意味ないと思うけど」
「でも、死なせちゃったら意味がないです。おじさんがそこまでする必要はありません」
当たり前のことを言われたはずなのに、ガルベリオは微かにむっとした。
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