021.赤い衝動


 赤を見るとどうしても地を蹴りたくなる。大地そのものが自分を弾き出すように、私は駆けてゆく。

 赤こそが私の色であり、それ以外のなにものでもないからだ。

 私の中にも赤は流れる。例えば血であったり内臓であったり。

 私はそれ自体を目にすることはないが──否、私は私のそれを目にすることはないが、誰かのそれを目にすることはあるのだ。

 見るとひどく高揚する。

 私の中にも熱いものが流れているのだと再確認する。時々自分は冷たいのではないかと思うからこそ、それは喜びに近かった。

 本当は冷たいのだろう。

 赤いそれを見ても何の感慨も沸き上がってこないのだ。ただ流れてしまい、崩れてしまい、それを放置すれば腐りゆくことを知っている。それを止める術はないのかと自問する。

──否。

 是、と答える声はない。ないものとして私は生きてきたからだ。

 そうだ、ない。

 大地に還ろうとするものをどうして止めよう。

 あの高揚は怒りに近い。

 赤を止められぬ私への。赤を求める人々への。

 ならばお望みどおりと赤を見せる。彼らが求めうる全ての赤を。

 平凡に赤い衝動で一石を投じよ。

 そして私はただの肉塊ではなくなる。双角を高々と掲げ、四肢に張り詰める筋肉の音を聞く。

 怒れ。高揚せよ。赤を求める群衆に赤でもって応じ、赤でもって高揚せよ。

 私は地を蹴る。

 赤は私の色だからだ。あの赤は私にも彼らにも、ただの肉塊と成り下がったものにも流れているのだろう。

 体中の空気を吐き出し、周囲の酸素を吸い込む。そうら、頭が冴えてきた。

 さあ逃げろ。

 私は赤のなんたるかを知り、ただ草を食むだけの四本足の獣ではないのだ。

 肉塊になどなってなるものか。

 赤い衝動を、血を求むる全てのものに献上し、私は戦士の称号を得る。



終り


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