078.クーデター(2)


「そうだな。……対価はいらない。もし払いたいのなら、運び屋に払うといい。ここにいるかどうかはお前の自由だ。ただし、今出られるかはぼくにもわからない」

「ほらな。やっぱりそう来たか。何だ、どこの国の奴だ。庭っつって、適当に怪我人だの何だの集めてどっかに売ろうって魂胆だろ、え?こんなジジイのでも、腎臓一個に何十万もするご時勢だからな」

 タオはやおら立ち上がり、辺りを睨みつけた。

「どこだ、どこに隠れてやがる。俺はどこにも逃げねえからな!捕まえたけりゃとっとと捕まえろ!ジジイ一人にこんなガキ使うなんて手間はいらねえ。それとも値踏み中か?気に入らねえなら殺せ!やれよ、おらあ!!」

「ちょっと失礼」

 恫喝するタオの後ろに回り、運び屋は手刀を首筋に見舞った。すると、糸が切れたようにかくんとタオは膝をつき、その場に倒れこんだ。

「気絶したようだ」

「気絶させました。いくらか血気盛んなおじいさんのようなので、少し眠ってもらおうかと」

「元気なのはいいことだ。しかし、病み上がりであの迫力は圧巻だった」

「今までは割と穏やかな人が多かったですが、タオさんはちょっと一癖ありそうです。庭にクーデターでも起こしに来たような感じもしますね」

「クーデター?」

「武力などで政権を奪うことです、神さま」

「ぼくの記憶が正しければ、この庭にそうやって奪われるようなものは一度もなかったはずだが」

「僕もそう思います。だから物の例えのようなものです」

「なるほど。ところで彼はここに寝かせたままでいいのだろうか?」

「場所を移しましょうか?」

「そうした方がいいのだろうが、そうしたところでまた先ほどの繰り返しになるように思う」

「そうですね。では、毛布を持ってきましょう。これも借りと言われてしまいそうですが、風邪をひかれるよりはいいでしょう」

「うむ、任せた」

 タオが次に目覚めた時、体には薄手の毛布がかけられていた。寝ていた場所は昼から変わってはいないが、辺りはとっぷり暮れて夜になっている。明かりが全くないらしく、木々や草が影となって蹲っているようにしか見えない。そこに危険が潜んでいるように思えて、タオは体を起こしてじっと睨みつけた。

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