076.特等席(1)


 どうよ、とタクミは自慢げに言う。

「おお。大したものだ」

「だろ?これを草むらから発掘した時には正直、びっくりしたけどな」

 タクミは綺麗に掃除した噴水に手をかけた。二段式で六角形を呈した噴水は、タクミが草むしりをしている時に見つけたものだった。

 もとは白く美しい噴水だったのだろうが、草木に埋もれて忘れられ、長いこと手入れもされずに放っておかれたそれは、ところどころに錆が浮かんでいる。タクミが見つけた時には噴水の外だけでなく中にも雑草が生え、水を放出する二段目からは、水のかわりに蔦が降りていた。勿論、今はそれもきっちり除去済みである。

「こんなものが庭にあったとは、ぼくも知らなかったな」

「こんなでっかいものを?……まー、こんだけ広い庭してりゃな」

「ここが広いかどうかはぼくにはわからないが」

「狭いなんつったら怒るぞ」

「狭いのか?とりあえず、ぼくはこの庭の端から端まで歩いたことはない。だから、広いのかもわからない」

「じゃあ、庭に何があるのかも?」

「はっきりとは知らない。屋敷と倉庫があるというのは知っているが、それも運び屋が見つけたものだ。他に小屋があるが、あれはマキくんが見つけた」

「マキ?他にも誰かいるのかよ」

「少し前にいた子だ。お前が潰したオクラのなっていた菜園は、彼女が作った」

「……あれをオレの悪行みたいに言うか、あんた」

「ぼくは潰せと言った覚えはない」

「あのな……」

「ところで、この噴水は水は出るのか?」

「あ?」

「水だ。噴水というからには水が出て然るべきだろう。知らないのか?」

「……オレを馬鹿か物知らずみたいに言うのやめてくれませんかね、カミサマ。水が出るように手入れもしねえで何を言う」

「噴水があるとは知らなかった」

「そりゃさっきも聞いたよ。なら探せっての。庭なんだからあって当たり前だろ」

「探そうというほどの意欲はない。だが、あれば見たいと思う。ぼくにとって噴水とはそういうものだ」

「あーあーはいはい。噴水論の講釈をどうも。神さまなんだから水出すくらい簡単じゃねえの?魔法か何かで」

「……時に、お前はぼくを馬鹿にしたような物言いをする」

「子供の神さまごっこに付き合ってやってんだろうが。これでも恩は忘れないんでね」

「ぼくは本当に神さまなんだが。……まあいいか。恩を忘れないのはいいことだ」

「そらどうも。で?神さまは出来んの?」

「出来ない」

「……ちったあ悩めよ」

「悩んだところで答えは変わらない。僕には出来ない」

「何で?神さまっつったら、何でも出来るだろ。人作ったり、洪水起こしたり、木生やしたり」

「それは人間の想像の産物だ。人を作ったのは太古の生命が元だし、洪水は大量の雨や河川などの決壊が起こす。木はほうっておいても勝手に生える。だから、枯れた噴水から水を出すことは出来ない」

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