069.猫舌(2)
「あれだけ無理って言って、研修も行ってきたのに志望をころころ変えるのも、その、あれなんだけどね。学都でもう少し勉強しようと思って」
ヨルドは目を丸くしてパロルを見た。口に運びかけたフォークが途中で止まる。
「それでね……ヨルドさえ良ければ、九年生まで一緒の部屋にいてもいい?」
パロルの目は真剣だった。膝の上で力一杯握った拳が、その証明である。小さな主張にすぎないが、パロルにすれば大きな我が儘なのだろう。ヨルドに対してさえ、今も頬は緊張で赤くなっている。そうまでして主張してくれたことがヨルドは嬉しかったし、答えなど一つしかなかった。
「やった!」
フォークを置いて、思わずパロルを抱きしめる。ヨルドの唐突な行動に、パロルは驚いて目をしばたく。
「よ、ヨルド」
「いいに決まってんじゃん。何でそんなこと聞くんだよ、もう。こっちはパロルが呼び出すから、また何かとんでもないこと言われるんじゃないかと思って、どきどきしてたんだからさー」
「わ、私そんなにとんでもないこと言った?」
あるよー、とヨルドはパロルから離れて、残りのパイをつつく。
「何年生だっけ?パロルの幼馴染で、よく喧嘩してる人。サジェインだっけ?あの人と仲直りするにはどうしたらいいか、とか、どうやって挨拶したらいいの、とか」
「……そんなこと聞いた?」
「うん。ほら、私はリドゥンと幼馴染でしょ。それで今でも仲良さそうにしてるから、どうして、って。……どうしてって言われてもなあ、ってあの時は困ったから、普通でいいんじゃないの、って答えたけど。覚えてない?」
「……うん。ごめん」
「ええー?」
ヨルドはパロルの顔を覗き込んだ。すると、みるみるうちにパロルの顔が赤くなっていく。色恋にはとんと遠いヨルドだが、さすがにこれにはぴんと来るものがあった。
「……サジェインと何かあったでしょ」
疑いを込めて聞くと、パロルはこくりと頷く。
「仲直りしたの?」
「仲直り……なのかな。昔みたいに話せるようにはなったけど」
「……それって良かったこと?何かあまり変わりないような気がするけど……」
学都に入ったところで、リドゥンの性質そのものが変わるわけではない。多少の性格の歪みは見られるが、ヨルドが遠慮する理由にはならなかった。それが、パロルには本当に難しいことだったようである。
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