067.修正ペン(2)


「得意分野を伸ばすのが、うちの教育方針だったんだ。てか、お前、そこの鬱陶しいの何とかしろよ」

 メイオンは原稿から顔を上げ、執務机の前に置かれた来客用のテーブルで補習を受けるサジェインを指差した。その向かいではイードが本を広げている。

 元素学の試験を落としたサジェインへ、メイオンが言うところの「温情」でもってこの補習が行われているわけだが、当のサジェインはペンを握ったまま頬杖をついて、動きもしない。更に、「温情」に国語力豊かなイードを巻き込んだメイオンには、反省文のチェックを手伝わせようという下心もあった。だが、これもまたサジェインの不調によってイードがやる気を出さない。

 いつもならメイオンと言い合う元気はあるのに、今日はまだ一言も発していない。サジェインの周囲にまとわりつく鬱蒼とした雰囲気に、メイオンはじっとりとした視線を送った。

「せっかく補習を組んでやったのに、一ページも進んでないじゃねえか……」

「先生も、一枚くらいは進みましたか」

「だから、おれは得意分野を伸ばすように育てられたの。んな簡単に進んでたまるか。それでこうしてコーヒーまでおごって、お前にやらせようとしたのに、そこのがややこしい事になりやがって……」

「まずは自分で努力して下さいよ。生徒にやらせてどうするんですか」

「大体、ペットごときでいちいち反省文書かせる規則が悪いんだ。それなら規則を作ったてめえで採点すりゃいいのに、おれらはいいとばっちりだよ」

「僕にあたらないで下さいってば」

「お前にあたらんで誰にあたる。そこのとうへんぼくか?」

 イードは小さく嘆息した。

「先生の辞書には憂いって言葉がないでしょ、きっと」

「憂いの意味ぐらいはわかるさ」

「そういうところもサジェインと似てるんだなあ……」

 二人はよく気が合うし、衝突もする。致命的に違うのは、メイオンは大人でサジェインはまだ子供ということだった。メイオンほど割り切った考え方は出来ず、気持ちの切り替えにも時間と手間を要する。

 メイオンは握っていた修正ペンを投げ、大きく息を吐きながら「それで」と問うた。こんな状態では、はかどるものもはかどらない。

「憂いがどうした?今更、陰口で傷つくタマじゃねえだろう。好きな子にでもふられたのか?」

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