第四章 長い道
第四章 長い道
雲の切れ間から光が差し込む。それは天へ続く階段のようであり、暗い雲からの光が地上の暗闇を一掃していく光景は神話の世界を彷彿させる。
バーンは乾き始めた髪をかきあげ、手綱を握る腕の中で虚空を見つめるアスを見下ろした。
アスの腕の中にはあの黒い剣が抱かれている。馬を扱うのに邪魔だからと持たせているのだが、アスは至極大事そうに抱いていた。
「……これから仲間と合流する。揉め事起こすんじゃねえぞ」
凄みをきかせて言ってみるが、反応はない。そもそも話を聞いているのかすら不確かだ。
仕方ないか、とバーンは息を吐いた。
話の真意は図りかねるが、あの白い制服を着た神官とは馴染みなのだろう。しかし何があったか仲違いをし、アスは兵士を斬り殺した。
──強い。
いくら雨でぬかるんでいたとはいえ、国軍が女一人に手も足も出ず負けるとは思えない。ならばそれだけの悪条件を一笑に付すだけの実力がこの少女にはあるということなのだろう。
目にしたことのみでわかるのはこれぐらいだ。
後はアスからの話で情報を得たいところだったが、今のところ話すつもりはないようである。
また一つ溜め息をついた時、道の先で大きく手を振る人影が目に入り、バーンは馬を速めた。
「……カリーニン!」
「……また拾いもんか」
出迎えた大男は軽く眉をひそめてみせる。長いつきあいでこの少年がそういう性の持ち主なのは充分理解したつもりだが、こうも頻繁にあると溜め息をつきたくもなる。
うんざりした表情のカリーニンに軽く笑ってみせ、周囲に視線を巡らせた。
「あとで説明する。皆は?」
「森ん中に少し。半分はリファムだ」
顎で横に広がる森を示す。バーンは顔をしかめた。当初の予定と違う。
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