第一章 二人
第一章 二人
鳥の視線を借りればその大陸は楕円に近く、東側が大きくえぐれていた。更に降下すればそのえぐれた箇所を内海とし、数隻の漁船が外海へ舳先を向けている。
そして更に降下をすれば、その街の素朴な暖かさに触れることになる。
石で造られた街だった。だが決して冷たさはなく、剥がれ落ちた漆喰にも、ところどころ穴の開いた石畳の道にも、人の生活臭さが溢れている。美しいとは言えぬものの、その街で暮らす者には一つの誇りめいたものがあった。恐らくそれは海の街独特の活気に似たものなのだろうが、そうとは言い切れぬ側面をこの街が属する国は持っている。
「……そう、そうなんだってさ」
「へえ。戦乱の書が」
「予言書じゃないのかい」
「あれは戦乱の書だろう。嫌なことが起きる」
港に程近い大通りで露天を構える男を中心に、年かさの増した女たちが声をひそめる。彼女たちにとって、それは決して喜ばしい情報とは言えなかった。しかし、露天の男は王都で手に入れた情報に少しばかり興奮し、その不安な顔に拍車をかけられたようだ。手に持った紙をひらひらと振ってみせる。
「いいや、予言書だ。エルダンテにこれが現れる時、何かが起こる。だから王城は読める者を探しているのさ。こんな号外ばりの紙面で募るほど……」
「それ本当?」
いい気分で弁舌をふるっていた男はやや顔をしかめ、話の腰を折った憎き相手の顔を見上げる。
さらりとした金髪に大きな瞳。そして透き通るような白い肌とくれば女と思っても仕方がないだろう。その人物の体つきはどう見ても男であり、その口から発せられるボーイソプラノはまだ成長期であることをうかがわせた。
「ライ」
男の話に自分が抱く不安を上乗せして話を大きくしていた女がその少年を見る。少年は挨拶もそこそこに男に問いを繰り返した。
「ね、それ本当なの」
熱意のこもった眼差しで見据えられ、観念した男は肩の力を抜いた。
「そうだよ。前と同じく、兆候もあったらしい。予言書を読む者、素性を問わず王城にて募る。ほら」
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