第二十四章 片翼



第二十四章 片翼


 予想通りと言ってもいい。エルダンテへと全軍を集中させたリファムの背後、即ち、今まさにアスたちが入り込もうとしている西部はがら空きに近かった。あまりに手薄すぎて罠を連想させるが、北部に迂回する余裕もなく、ましてやグラミリオンから入るなどという話は論外である。リファム西部に到着するまで散々、人目にさらされて驚愕と畏怖をふりまいてきたのだから、これ以上目立つのは避けたいところだった。

 しかし、湖があると言ったイークの言を冗談ぐらいにしか捕えていなかった面々は、その本気さに驚かされる羽目になる。

「……本気で行くのか」

 進行方向、城の正面に臨む渡り廊下より、眼下に広がる広大な森とそこここに点在する小さな村を眺めながら、ライが呆れたように呟く。今こそ森に隠れて見えないものの、このまま何事もなく進めば半日ほどで件の湖に着くはずだ。

 隣で手甲の締め具合を調節しながらイークは事もなげに頷く。

「冗談とでも思ったのか。この大所帯を敵味方入り乱れた森の中引き連れて、無事でいられる保証はないぞ。アスラードがいるから大丈夫だろうが、魔物の心配も一応はせんとな」

「この辺りに城を本拠地として構えて、そこから王城に斥候でも出すのかと思った」

「出した先で首なしにされるのがオチだ」

 言いながら今度は剣の様子を調べる。抜き身のそれはライが持つものよりもいくらか大振りだった。

「まさか。あなたが出て話せばいい」

「西はあらゆる意味でリファムの弱点だ。深い森に人の往来が少ない場所、ルマーやグラミリオンからの侵入を許すにはうってつけの入り口だろう?」

 言葉を濁して頷きながら、ライは風景へと視線を飛ばす。ルマーが持つ、他民族の寄せ集めのようなごった煮状態を整えるべく、リファムが何度か介入してその度に火の手が上がっているのは知っている。更にはグラミリオンとの仲など言うまでもない。

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