第二十一章 影の在り処



第二十一章 影の在り処


 先導するアスに連れられて森を抜ける間、誰もアスへ話しかけることが出来なかった。

 彼女が口を開かないのが要因の殆どを占めたが、一ヶ月という期間を経て現れたアスの変化に戸惑っているふしもある。

 驚くほどに迷いがない、というよりも並ならぬ覚悟と自身を統治することの出来た者が持つ、不思議な潔さがあった。この一ヶ月の間に何があったと問うことも出来ず、まんじりとした思いを引きずる一行の前で、時の経過を感じさせるアスの長い髪が揺れる。

「こっち」

 何度か方向を指示し、ささやかな川を越えた所で待機させていたらしい馬に、カラゼクとハルアを乗せて更に進む。

 森を抜けたそこは、なだらかな丘陵地帯で、これまでの旅路が嘘に思えるほど長閑な光景を作り出していた。

 ようやく天に上り詰めた陽光が緑の丘を照らし、柔らかく光を反射する草の上では小さな花々が束の間の栄華を誇る。決して主張するでもなく、落ち着いた色合いの花が群れて咲く姿は整備された庭園よりも生気に満ち、美しかった。

 時折、雲が影を落としながら流れていき、その合間を縫うようにして鳥が滑空する。涼やかな風が吹けば花弁が舞い上がり、それこそ幻想的と言うに相応しい。

 無骨な岩、暗い森といった、五感を楽しませるものについぞ飢えていたサークなどはすっかり自分のペースを取り戻し、はしゃいでアスを追い越していく。その姿があまりにも年相応に無邪気に見え、心なしか緊張していた一行の気分をほぐした。

 微笑んでその後姿を見つめるアスの前で、一人、小さな丘の頂上に立ったサークが前方を見据えて感嘆の声をもらす。

「ねえ、あのお城は?」

 後続を振り返るサークにアスは笑った。

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