第十八章 魔法が解かれる時
第十八章 魔法が解かれる時
着替えた方がいいだろうと、オッドはアスを先導して歩いた。
二人がいたのは、どうやら裏庭の引き込みの池らしい。美しい花々に満ちた庭を抜け、倒れた石柱が美術品よろしく乱立する回廊を抜けて歩いていく内に、ここは元々豪奢な造りの城だったということがわかった。
だった、と過去形にしても致し方ない。目に入る、あちこちには遠慮なくヒビが走り、庭を走る、元は回廊の一部だったのだろう石柱はその殆どが途中で折れている。廃墟と言うに相応しい壊れっぷりだが、そう思わせないのは庭を埋め尽くす花々と、城内を駆け巡る清涼な空気の所為だろう。
見た目と実際のギャップにアスが閉口しているのを面白そうに振り返り、オッドは一つの部屋の前で立ち止まった。
「ちなみにここは台所で、招かれざる客はここの竈に投げ込まれるような仕組みになっておる」
体をずらしてアスへ見るよう促す。
扉板のない戸口から真正面に大きな竈はあり、そこで沢山の灰にまみれて盛大にくしゃみをかましている男がいた。
「……そいつを助けてやったというのに、泥棒扱いか。相変わらずの……」
言い切る間もなく、連続してくしゃみをする。
その不満に満ちた声に覚えがあり、アスは渓谷で落下していく時に受けた罵倒を思い出した。
「……イーク」
灰で汚れた顔を外套でどうにか拭い、竈から出たイークはアスへ視線を向ける。
「何だ、声が出るようになったのか」
興味なさそうに言って台所を出ようとするイークの前に、オッドが立ちふさがった。
「汚れた格好で城内を歩き回られては困る」
「アスラードだって似たようなもんだろう」
「お前は灰かぶりだ」
「じゃあ、ここでくすぶっていろと?世話をする執事がいるようには見えんがな」
「王城暮らしが長引いて贅沢心が抜けんようだの。なに、手は足りている。幸いなことに台所にも水は引いてあるから、心置きなく使ってくれて構わん」
イークは嫌そうな顔つきになった。
「ここで洗えって……?」
「ちなみに炊事はここで行っているのは、いくらお前でもわかるな?汚した場所を綺麗にして返すのは全世界共通のマナーぞ」
「……貴様」
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