第十七章 おかえり
第十七章 おかえり
戦局は圧倒的不利の中で進められていた。
軽口を叩いたジャックの大斧は持ち主の疲労から益々重くなり、その動きを鈍らせる。ハルアも剣を構えながら息を整えようとするが、その間にフィルミエルからの攻撃が繰り出されて、まともな攻撃も難しくなっていた。
先刻の一撃から復帰したカリーニンやライに至っては、未だ痛みが残るのだろう。それでも大剣を振り回すカリーニンはまだ大丈夫そうだが、ライなどは時折顔をしかめ、足を止める回数が多くなっていった。
全く身動きの取れないカラゼクを法力で治癒するロアーナなどは戦力外に等しく、そしてアスは、ようやくこちらに攻撃の矛先を向けてきたフィルミエルの、強烈な一撃を防ぐので手一杯だった。
ぎん、とまるで金属同士がぶつかりあうような音を立てて、フィルミエルの掌底とアスの剣が拮抗する。
「……数で勝負出来ない相手もいるって、わかった?」
かろうじてフィルミエルの一撃を防ぐアスの顔を覗き込み、彼はにこりと笑った。
「あれらに興味はない。僕が殺したいのはお前だけなんだから、あれらの足さえ止めれば全くの問題外だってこと、わからなかったのかな」
「……!」
渾身の力で剣を振り払い、フィルミエルを遠ざける。
今まで彼がアスを無視したのは──決して攻撃してこなかったのはここにあった。
自分が立ち回るのに邪魔な人間の動きを止め、その後ゆっくりとアスとの戦闘を楽しむ余裕すらフィルミエルは持ち合わせている。
──負ける?
考えないようにしてきた言葉がふっと湧いた瞬間、歯の根が震えだした。
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