第十四章 葬られた民



第十四章 葬られた民


 朝から王城が慌しい。無理もないか、と執務室の扉の前に立ったベリオルは微かに顔を俯かせた。

──エルダンテ王、崩御。

 隣国の中堅国家の王が亡くなったと知らせが入ったのは朝のこと。死んだというだけなら別段、驚くようなことでもない。年老いた王の寿命など高が知れている。愚王と名高い老人が死んだところで、悲しむ者など片手で事足りるだろう。

 リファムとしても、お悔やみの一つでも考えて葬儀に列席すればいいだけで、そもそも大戦以来、外交らしい外交はしてこなかった。隣国であるにも関わらずそうしなかったのは、一つに、愚王の所業で傾くエルダンテに引きずられたくないという懸念がある。あれはそういう男だ、と笑った主君の顔が懐かしい。

 同時に、主君をして注意しろと言わしめた男が、国王崩御の現時点でエルダンテの頂上に立つリミオス・ハヴァニウムである。

 獣の如く注意深さを怠らないイークですら、リミオスの事となると顔をしかめたことを思い出した。

──そう、だからこそ慌しい。

 元より、エルダンテなどリファムの国力には及ばない。国を指揮する王もその立場に溺れた男である。国王と執権の二つの力が合わさったところで倍化するわけでもなかった──今までは。

 だが、リミオスが頂上に立ったとなると話は変わる。王位は自ら辞退したとのことだが、いずれは実権の全てを握ることになるだろう。

 エルダンテ王に子供はいない。立てる傀儡も、リミオス以上の策士もあの国には存在しないのだ。だからこそ厄介である。

 それまでは王という事実上の主君がいた所為か、表立った行動は避けていたものの、主君という壁がなくなった今ならリミオスの言に異を示す者もおるまい。それを鼻にかけて勝手に自滅してくれるなら言うことはないが、あの男はそんな生易しい男ではない。

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