第十三章 幾多の夜 一つの朝



第十三章 幾多の夜 一つの朝


 人は変われるんじゃなくて、自分から勝手に変わるもんだ。

 いつだかそう呟いた小生意気そうなバーンの声が思い出され、カリーニンは改めて二人を見た。

 残りの買出しに行かせたのに、と手ぶらで帰ってきた三人に怒鳴るジルの前で殊勝に俯くサークの隣、その二人は飄々とした顔で立っている。ヴァークは手馴れた様子でジルのお小言を聞き流し、そして、一番にカリーニンを驚かせたのがアスの反応だった。表情の乏しさに変わりはないものの、小言を聞く姿はどこか普通の子供めいて見える。それはヴァークも同様で、二人してぎりぎりまで張っていた糸をぷっつりと切ってしまったかのようなさっぱりとした顔をしていた。

 それは悪い意味ではなく良い意味で、これまでのこと、そしてこれからのことに見切りをつけたかのようでもあった。

──何かあったようだが。

 この時点で、カリーニンは三人が何をし、何を得てきたのかは知らない。勿論、変化の契機ともなった出来事はメルケンの店からは離れた場所で行われたものであり、ようやく夜になろうかという時刻でライとの一件が街に広まるほど、ここの民も暇ではなかった。

 だからカリーニンには「何かあったようだ」という予測として二人の微妙な変化を感じ取るしか出来なかったのだが、その変化は彼らにとってはさほど重大なことにはなりえなかったようである。

 大きな変化を迎えたのだろう。だが、その変化を安易に受け止めては今までの自分を切り捨てることになる。だから、常ある状態でいることが、変化の波を順番に受け止める構えなのだ。

「……今日はもう遅いし、明日だよ。いいね」

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