序章 アルフィニオス神書創世記
序章 アルフィニオス神書創世記
始めに混沌があった。
混沌はただ漂う存在であり、万物の傍観者であった。
次に、混沌の底から闇が生まれた。
闇は一つ所に止まり、秩序を己とした。
次に、混沌の淵から光が生まれた。
光は万物を照らし、あまねく全てのものに安寧をもたらした。
次に、混沌の流れから時が生まれた。
時は満ち引きを繰り返しつつ、慈愛と毒をふりまいていた。
最後に、混沌の切端から人が生まれた。
人は欲と希望に満ちていた。
欲は光を毒し、希望は闇を毒し、その二つを以て人は時を欲した。
安らぐことも、勇むことも自在な時を。
時はただ流れるものであり、手にすればそれは溢れ落ちた。
人は考えた。
手に余るものであるなら大きい器に時を移してしまえば良いと。
時は移された。
ただ流れ行くものだった時は器の中で巡る事を覚え、四季が生まれた。
しかし器はやはり狭く、巡りの緩急も次第に人の手には負えなくなっていた。
更に大きな器を。
もっと大きな器を。
時が溢れる事のない器を。
時は、緩やかに流れる事を忘れ始めていた。
狭い器の中では、流れられなかった。
それは、混沌が望む事ではなかった。
混沌は一度だけ──生まれてから一度だけ、その腕を動かした。
器は割れた。
時は自由を得、流れを得た。
そうして呪った。
自身を束縛し続けた人を。
人は呪いによって老いを得た。
人は、時を支配する事を諦めた。
「アルフィニオス神書第一巻 創世記」より
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