第三十章 暁の帝国



 覚悟を決めたように言うライと再び顔を見合わせて笑っていると、ひときわ大きい、サークの声が届く。

「ねえ、大丈夫?早くおいでよ!」

 サークの声に呼応して歓声が大きくなる。

 これに手を振って応え、アスは再びライを見上げた。

「今度はちゃんと一緒に走れるよ」

「どうかな。試してみるか?」

 アスの手を握る力を強め、ライは走り出す。初めは引っ張られるようにして走っていたアスだが、どうにかライの速度に追いついて共に地面を蹴った。



──彼らは走り出す。

 沢山の想いと願いと痛みと、それ以上の記憶を伴いながら。

 禍根に縛られ続けた大地はようやくにして朝を迎え、過去から未来へと繋ぐ道筋を見出した。

 そしてこの大地は人々の想い全てを吸い込んで、ただあるがままに広がり続けるのだ。

 次の誰かの為に、この記憶を伝えゆく為に。

 彼らは駆ける。

 まだ目覚めたばかりの、この暁の帝国を。



三十章 終り

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