第二十二章 砲声
「私はただ大人しくするためにここにいるわけじゃない!」
「……なら、ここにいる資格はない。後でどうするかを伝える。出て行け」
簡潔な言葉にこれ以上の反論は許されなかった。皆が見守る中、アスは唇を噛み締め、思いのほか静かな足取りで部屋を出て行く。
彼女の足音が聞こえなくなると、知らぬ間に息を詰めていた面々がほうと息を吐く。それはライでさえ息をするのを躊躇わせるほどの緊張で、心なしか虫の声も遠慮していたように感じた。
「いいのかよ、王様。あいつまで自分たちと一緒だと思わない方がいいんじゃねえの」
腰に手をあてたバーンが憮然とした表情で言う。オッド共々、どことなく傷ついた表情でイークは地図を見た。
「あれが事実だ。アスラードがエルダンテに入らなければ勝機はある。それに嫌われるのにはお互い慣れている。だろう?」
言葉をかけられたオッドはぎこちない笑みを浮かべた。
「お前ほどではないがのう」
しかし、と言って古い地図の手触りを確かめるかのように触れる。
「……今回ばかりは、少々こたえたな」
──明朝、朝靄にまぎれてリファム国軍はエルダンテへの進軍を開始。これに対し、エルダンテは抗戦の構えを示すかのように、神官士による反撃を始める。一方のグラミリオンは静観を決め込んだが、一部の兵士がエルダンテの攻撃に乗じて砲撃を開始する。
この砲声が、戦の幕開けを告げた。
二十二章 終
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