第二十一章 影の在り処
「そこに行くんだ」
城、という言葉に皆がざわめきたつ中、アスはいくらか歩調を速めてサークの隣に並ぶ。その後ろを一行が小走り気味についていくと、目の前にはこちらの想像を越える光景が待ち構えていた。
「……なんだありゃ……」
思わずもらしたバーンの言葉にアスが答える。
「見かけはぼろだけど。ちゃんと人は住める」
「いや、オレが言いたいのはそうじゃなくてさ」
「行こう。あまり待たせるとうるさいんだ」
頭上に疑問符をいくつも点滅させるバーンを置いて、アスは丘を下りていく。
彼らの目の前には更に高い丘が裾を広げており、寂しげに中腹で立つ木を凌駕して、古城が丘の上に鎮座していた。
倒壊した柱やヒビの入った壁、歩み寄れば歩み寄るほど粗い部分が目につくものの、その実、時を感じさせる重厚な造りはどの国にもない構えだった。
手製らしい木の柵の向こうが城の正面玄関となっているようだが、扉の部分は見事に崩れ落ちて、正面一階の壁はその殆どが原型をとどめずにいる。等間隔に残る頑丈な柱が見えるために一見、回廊のようにも見えるのが救いというべきか。見た目の体裁は損なっているようで、損なわれていない。
その正面で白いローブに身を包み、三つ編みにした銀髪を長く垂らした少年が、彼らを迎えてにこりと笑う。彼の前でようやく足を止めたアスは二言三言、少年と言葉を交わして皆を振り返る。
「この人はオッド。賢者だ」
明日の天気を言うかのようにさらりと放たれた言葉を飲み込むのに数秒、更に目の前の出来事を理解するのに数秒を要し、段々とわきあがる驚愕に息を飲む姿をオッドは楽しそうに見つめる。
「はじめまして。その様子だとわしの噂はよう聞いておるようだの。本当は友人と共に迎えに行きたかったのだが……」
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