第二十章 そして再び風は吹き



 しかし、アスの行方を失って一ヶ月、ようやく訪れた転機にも思えた。今まで足踏みをしていた分の切っ掛けが、ソンという形となって現れたと思いたい。

 彼を倒せば、アスの居場所がわかるかもしれないのだ。

 ぎん、と交差する刃の向こうで紅い瞳がわずかに細められる。

「……何だ、ただの人形じゃなかったのか」

 なぜかほっとするような顔つきで言うソンに、ライは一瞬、剣へ込める力を緩めた。

「なに……?」

 だが、この隙を逃さず、ソンは鎌を振ってライを押し戻す。

 たたらを踏んでよろめくライに体勢を立て直す余裕など与えず、ソンの大鎌が大きく振り被られた。

──刹那。

 金属がぶつかる凄まじい音が森に響きわたる。

 渾身の力を込めてぶつかりあった金属の音は、わずかに残っていた森の静寂をも切り裂き、そこに立ち尽くす各々へ現実を突きつけた。

 反響する金属音が木々に跳ね返って空へと帰る中、一つだけが帰らずにライの前に立つ。

 左腕だけを覆い隠す外套に、腰にはいた長剣の鞘。小さく思えていた背中がいくらか大きく見え、その背中に少し長くなった夕陽色の髪が揺れる。

「……アス」

 ぽつりと呟いたライの声を合図に、ソンは小さく嘆息したかと思うと地面を強く蹴って跳躍し、木々の間を縫って去っていった。

 後に残された者には木々のざわめく音と、ようやく訪れた平穏を謳う鳥の声と──体をこちらに向けて苦笑するアスの声が届く。

「──久しぶり」



二十一章 終

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