番外編 ちいさな明かり



「当たり前だろ」

 胸を張って言う女店主に、値切りを諦めたバーンは代金を取り出した。

「グラミリオンに入ったものはグラミリオンのものなんだから、どう扱おうがうちの勝手じゃないか」

「他国にも聞かせてやりたいねえ、その言葉」

 代金を受け取った女店主は果物を袋に詰める。

「そのために、国軍がうちの街にもやって来るってことさ。そうだね、あと五日もすれば着くだろうよ」

「それじゃあ仕方ねえ。しっかり稼いで、またまけてくれよな」

 果物を詰めた袋を受け取り、バーンとライが店を出ようとした時、その横顔に向けて何かが飛んできた。ライが思わず手で受け止めると、それは今しがたバーンが値切りをせがんだ果物だった。

「やるよ。五日後には左団扇さ」

 ライは笑って果物を掲げて、礼を言う。

「ありがとう」

 そうして店を出たライの髪が、淡い緑色に輝いて反射した。


+++++


 路地をすり抜け、馬を繋いでいた場所に辿り着いたところで二人はフードを脱ぐ。グラミリオンの北部とは言え、やはり夏場の暑さは慣れない者には堪えた。フードを脱げばすぐさま火傷のような日焼けを負うのだから、外出の際には外套が手放せない。日陰に入って涼しい風を感じ、ライはほっとした。

 その姿を何とも言いがたい表情でバーンが見ているのに気付き、尋ねる。

「なんだよ」

「……やっぱり上手いこと染まんねえなあ、お前の髪。自分の腕が悪いのかって思えて泣けてくる。いっそのこと坊主にしろよ」

 無茶苦茶なことを言いながら、買った品物を馬に背負わせた荷袋にしまった。

「何で坊主になんか。長いのを切ったんだから、それで充分だろ」

 ライの言う通り、長く伸ばしていた髪をライはうなじの辺りで切っていた。初めは首回りが寒くて気になったものの、今では慣れて、むしろ伸ばそうという気も起きない。それなりに覚悟のいることだったが、正体を隠すという意味では、髪を染めるのと同じくらい手っ取り早い方法だった。

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