第十四章 葬られた民
目的を見つけたなら何であれ、遂げる側の人間だ。それはまさしく、イークにも言えることであり、自らとは全くの対極に位置するタイプの人間でもあった。だから、自分にはあの男を御しきれる自信がない。
その男が今日、何の用件かこちらへ来るという。情勢を窺ういい機会だろうが、心労が絶えない。
何度目かの溜め息を扉にぶつけた時、その扉の向こうから兵士が声をかけた。
「ベリオル様、客人と申す者が」
「……いい、入れろ」
周りを憚るような声に対し、ベリオルは声を張り上げる。自分の苛立ちを少しでも相手にわかってもらおうと出した大声だが、果たして伝わっただろうか。
扉の片側だけが静かに開き、兵士を睥睨した金髪の男がゆったりとした歩調でベリオルの前に立つ。
「さて、番犬に話はないのだが」
「この番犬は噛み付くことも知っておりますよ、ヘイルソン殿」
なるほど、と言って小さく笑うヘイルソンを奥へ促し、兵士には下がるよう命じる。ヘイルソンの正体が気になるのか、不承不承といった体で扉が閉じられるのを見届けてから、座ろうとしないヘイルソンの前に立つ。
「どうぞ」
「お前と歓談する気はない」
ソファを勧めるが、あっさりと拒否される。つくづく考えの掴めない男だと苦虫を噛み潰しながら、ベリオルはソファの横に立った。いつもは外套ですっぽりと身を包むヘイルソンだが、今日に限って動くたびにその裾から白い軍服のようなものが見え隠れする。あれが本来の格好なのだろうと思うと同時に、ベリオルは微かに不審を抱いた。
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