槇と天狗の月見酒/こけまる様より

槇と天狗の月見酒/こけまる様より

二周年記念で頂いてしまいました!「銀色夜話」より槇と天狗です。
槇がイメージぴったりで息を飲みました。もう感激です。月の夜の雰囲気もいいし、二人の様子もまさにこれ!してやったり顔の槇といい迷惑顔の天狗が酒を酌み交わしながら何を話すんでしょうね(笑)賑やかな話し声が聞こえてきそうです。
本当にありがとうございました!

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 赤い杯を取り出した天狗に槇はつめよった。
「何だお前、子供のくせに上等なもん持ちやがって」
「見た目で判断しないでよ。これでもお前より生きてるんだ」
「へえ、どれくらい」
 気のない相槌を打ちながら杯に酒を注ぎ、自分のお猪口にも注ぐ。
「どれくらいだ?うーん」
 酒に口をつけ、視線を中空に彷徨わせながらうなる天狗を槇が笑った。
「自分の年令も忘れるぐらいもうろくしてんのかよ」
 けらけらと笑う槇を天狗はじろりとねめつける。
「酒飲む相手もいないおじさんには言われたくないね」
「何言ってやがる。いるんだぞ、ちゃんと。たまたま予定があわなくなっただけでな」
「絡み酒だからじゃないの」
「おれの酒はいい酒だ。今だって現に楽しかろう」
 えへん、とばかりに胸を張る。小さく嘆息した天狗は近くを通りかかった魑魅魍魎を掴み、一口かじった。瞬間、小さな抗議の声がした気がするが気にせず二口目にいく。
「まあ、お前は酔うからね。嵐とかなんか酔わないし、どこまでもしらふだし……」
 だろ、と激しく頷きながら槇は声を大きくした。
「あいつら酒の楽しみを知らねえんだ。酔ってこそなんぼだと思わねえか」
「酔って侯(そうろう)。いつの時代も酩酊感を味わってこその酒なのに、それをあいつらときたら」
「そうそう。ざるも驚く飲み方しやがって。それでいてけろりとしてるもんだからこっちはつまんねえし」
 手酌で酒を注いでいた天狗はちらりと槇を見た。
「……お前、人間のくせに話合うな」
「お前だって人間だろうが」
 槇に酌する手を止めて、天狗は自らの姿を見直す。なるほど、山伏の格好ながら人と言うに障りない。
 しかし、と考えた。この人間は見える側の人間ではなかったか。しかも日常ではあちら側の者を毛嫌いする性質があったように思うが。
──ま、いいか。
 ばれたらばれたでその反応も面白かろう。
「ん、酒」
「おお。気がきくなあ、お前」
 卵色の月が二人の影を濃くする。酒を酌み交わしている相手が「そう」だとは気付いていない槇がしらふに戻るのは、まだ先の話――

終り
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御粗末様でした。


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