(『ラグナ=ザ=ブラッドエッジ』…。貴方の存在が、僕から姉さんを奪ってしまったんだ…!)

「どういう事だ…?」

僕の言葉が理解出来ないのか、ラグナは困惑の表情を浮かべる。

「姉さん…ニルヴァーナの駆動条件は、僕の人に対する『殺意』です。こんな風に振る舞ってますが、ね」

思っていたより冷静な声が出たのに驚いた。さっきまで取り乱した自分を客観的に見た自分が口を開いた、そんな感覚だった。

「けれど貴方はそんな事気にもせず、僕に踏み込んできたんですよ。貴方は意図してやった訳では無いと思いますが。ねぇ、『ラグナ=ザ=ブラッドエッジ』貴方はあと僕から何を奪えば気が済みますか?」

我ながらなんと卑怯な言い方だろう。奪われた物と引き換えに自分は大切な物を与えてもらったというのに。

「俺は…」

そう呟いたっきりラグナは口を開かなくなった。自分を責めているのか、あの時見た、言葉では表しにくいが辛そうな、泣きそうな、そんな顔をしていた。

「…申し訳ありません…言葉が過ぎました。別に責める為にこんな事を言ったつもりは」
「少しはあるだろ?恨んでない、なんて事は無理だ」
「…えぇ」

そう言ってニルヴァーナの手を握る。数日前まではこんな些細な行動にも応えてくれたニルヴァーナ。今では沈黙した、ただの鉄の塊。

「貴方の事は許せないかもしれません。けれど、感謝もしています」
「感謝?」
「僕に、姉さん以外の人を信用してもいいのかもしれないと思わせてくれた。僕にも、感情がある事を教えてくれた。…僕に、本当の挨拶を教えてくれた」

目が覚めたら必ず貴方が挨拶をしてくれる。ただそれだけの事なのに、1日が幸せに感じる。僕は、そんな事すら知らなかったのだ。

「それでも…」
「気が済みませんか?」

そう尋ねれば再びラグナの表情が曇る。

「では、取引をしませんか?」

そう提案すれば当たり前だがラグナは不思議そうな顔をする。取引にする材料など無いからだ。
それでも僕は、何とかしたかった。ラグナの納得する方法で、僕たちの関係をきちんと作りたかった。咎追いと賞金首ではなく、カルル=クローバーとラグナ=ザ=ブラッドエッジとしての、関係。

「…言ってみろ、ガキ」
「僕の、父親…。その行方の手がかりを見つけたら、教えて欲しいんです」

我ながら苦しい条件だ、そう思った。何の手がかりもない父親を世界から見つけ出すなど、到底叶う筈も無い。半永久的にラグナを束縛する事になる条件を出してしまった事に、今更ながら後悔する。しかしラグナは笑っていた。

「分かった。…んじゃ、図書館に追われた時はまた逃げるの手伝え」

その返事を聞いて、ぱっと視界が明るくなったような気がした。僕が微笑むと、ラグナは苦笑しながら、今回みたいな手間はかけさせんなよと言い、くしゃりと頭をその大きな手で撫でてくれた。
あぁ、僕はこの手が好きなんだ。父さんにこんな事をされた事が無いから、だから余計に求めてしまう。

「あのっ…」
「何だ?」
「ラグナ…さん」
「何今更改まってんだ?」
「だって、その、えっと…」
「何か…やっとお前が子供に見えた気がするよ」

ラグナはふわりと笑い、僕を抱き上げる。え、とかあ、とか言ってる間にベッドへ運ばれ寝かされる。

「ほら、とっとと寝て、怪我直して、またキリキリ働け。今のお前なら、姉さん居なくても強くなれる筈だ」
「どうして、そう言えるんですか?」
「そりゃ…アレだ、他人を信用する事が出来る様になったし、何より体張って大切な人守れるんだ。その気持ちがあれば、いくらでも強くなれる」

我ながら臭いセリフだなあ!とラグナは笑うが、僕はその言葉を信じてみてもいいかな、と思った。



だって僕を、姉さんと父さんの呪縛から、解放してくれた人なんだから。




---END




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