もう、何度この部屋で夜を過ごしただろうか。
思っていたより背中に受けた傷は深く、治療にも時間がかかるとは思っていたが、今日で一週間が経つ。
いつも目を覚ますと、当たり前の様にベッドのサイドテーブルで朝食の準備をしているラグナが居て、「おはよう」と挨拶をするのだ。最初、それが自分に向けられたものと分からずきょとんとした顔を返してしまったが、今では自然と返事が出来る様になった。
共に生活をする内に一番感じたのは、ラグナは賞金首になる必要の無い人物ではないか、という事だった。今まで自分が咎追いとして捕らえてきた賞金首達は皆何かしらの殺意が感じられた。勿論最初ラグナと対峙した時にもそれは感じたが、あっという間にそれは無くなってしまったのだ。
要するに、ラグナは自分に害を与えない人物には比較的友好なのだ。現に自分はラグナに傷の手当てから看病までしてもらっている。こんな大きな貸しをつくってしまって、どうやって返せばいいだろう?と悩むのが就寝する前の日課になってきている。




しかし今日は違った。








目覚めた時、部屋に彼の姿は無かった。











僕は姉さんが居なくなった日の朝を思い出した。








「ははっ…。何で…なんで今更こんな事思い出しちゃうのかなぁ…。もう、平気なつもりだったのに」

自分に言い聞かせる様に言葉を続ける。

「大丈夫。僕は大丈夫だよ、姉さんが居ればそれでいいんだ。……姉さん?」

いつもなら応えてくれる筈のニルヴァーナが何も反応を示さない。慌ててベッドから抜け出し駆け寄る。傷口が痛んだけれど、そんな事気にならなかった。

「姉さん…?ねぇ、姉さん!どうして、どうして何も応えてくれないの!?」

いくら動いてと願っても、ニルヴァーナが動く気配は全く無い。

「どうして…?姉さん、また僕を置いて行くの?ねぇ、姉さん、ねぇさん!またその声で、顔で、僕の…、ぼくのなまえ、よんでよぉ…っ!」

無様に縋り付いて訴えるがニルヴァーナは何も応えてはくれない。



部屋には僕の声だけが虚しく響いた。




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…い、おい…起きろ、


「オイ、起きろガキ!」
「ん…っ」

コツン、と頭を小突かれて目を覚ます。どうやら眠ってしまったみたいだ。

「こんな所で何寝てんだ…?」

呆れ顔のラグナが顔を覗き込む。よく見ると、買い物をしてきたのか手には大きな袋が抱えられており、その中から缶詰や果物が見え隠れしている。それを見て、何故か安堵した。

(どうして?何でこんな奴が居たことに安心しなきゃならないの?)

「ホラ、ベッドに戻るぞ。怪我人がうろつくな」
「っ…!僕に、触らないで下さい!」

そういって腕を掴まれるが反射的に振り払い、距離を取る。

「オイ、何言って」
「お願いです。もう放っておいて下さい!これ以上…これ以上!僕の中に踏み込んで来ないで下さい!」

(あぁ、駄目だ。歯止めがきかない)

「どうして貴方は…、あの時僕を助けたんですか。僕は本当はあそこで死んでも良かった!姉さんの生きていない世界なんて、生きてても仕方無いんだ!」

(醜い感情が、蓋をして閉じ込めていた感情が、溢れる)

「本当は分かってたんだ、姉さんがもうこの世には居ないって。姉さんを元に戻す方法が存在する、それだけが僕の生きる希望だった。でも、蒼の魔導書は貴方が持っている限り手に入らない…。なら姉さんこんな姿にした父親だけでも死ぬ前に殺してやろう、そうも思った…でも、」

沈黙したまま動かないニルヴァーナをそっと撫でる。

「姉さんは、動かなくなりました…。原因は分かってるんです…貴方なんですよ、『ラグナ=ザ=ブラッドエッジ』…。貴方の存在が、僕から姉さんを奪ってしまったんだ…!」








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