ここは…どこだろう?
暖かくて、優しい…まるで姉さんみたいだ
姉さん…そうだ、
「姉さんっ!?…痛っ!」
「お、目覚めたか?」
起き上がろうとした瞬間背中に激痛が走る。その痛みが、今を現実と実感させ、自分が生きていると思わせた。
質素な部屋に寝かされていたらしい。落ち着いて周りを見渡す…小さな宿屋の様だ。キョロキョロと首を動かしていると、ついさっき剥いていたのだろう林檎を差し出される。しかし、なかなか手に取る事ができなかった。
「ただの林檎だよ。変なモン入ってねーって」
「すみません…つい、癖で」
苦笑しながら、一口大に剥かれた林檎を受け取る。久し振りに物が喉を通るのか、租借してから飲み下すまでに随分時間を有した。
体の動きの鈍さや機能の低下から、かなりの時間眠っていた事が分かる。
「あの…僕はいったい」
「2日だ」
ラグナは林檎を剥きながら言葉を続ける。
「2日間、ずっと眠ってた」
「どうして…?」
「戻ってみたらお前が倒れてた。だから連れてきただけだ」
傷はまだ塞がっていないから無理はするなよ、と言い綺麗に切り揃えられた林檎が並ぶ皿を渡される。ラグナはまたひとつ林檎を取り出して、それを丸ごとかぶりつく。
「あの、姉さん、は…?」
「そこだ」
指差された先、部屋の隅に静かにニルヴァーナは佇んでいた。
「良かった…姉さん、良かった…!」
本当に、良かった。特に酷い外傷も無く、そのままの姿だった。
ぱたり、とシーツに水滴が落ちる。それはいくら我慢しても止まらなくて、視界がどんどん滲んでくる。
「あ、れ…?何、これ…」
「バカ。ガキが涙我慢すんじゃねーよ」
くしゃり、と大きな手で撫でられると何故かそれがとても心地良くて、何だか姉さんみたいだ、なんて思った。
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「…すみません。お見苦しい所をお見せしてしまいました」
「気にすんな。ガキがそんなに気を張る必要、ねーんだよ」
そう言ってラグナはまたくしゃり、と頭を撫でた。何だろう、この人に触れられるのは、嫌いじゃない。
「けど、お前みたいなガキが何で『蒼の魔導書』を求めるんだ?」
「それは…」
言葉で説明しても良かったが、僕はニルヴァーナを近くに呼んだ。
「なっ…」
「あ、安心して下さい。僕もこんな状態なので大した事は出来ませんよ」
そう言いニルヴァーナを屈ませる。その言葉を信用してくれたのか、ラグナは僅かに警戒を緩めた。
「ご紹介します…。僕の姉、エイダ=クローバーです」
そっとニルヴァーナの顔に触れ、仮面を外す。そこから現れたのは金髪碧眼の美しい女性の姿。僕の姉さん。僕の最愛の人。
「僕は姉さんを元の姿に戻したい。その為には貴方の持つ蒼の魔導書の力が必要なんです…お分かりいただけましたか…?」
ラグナは何も言わなかった。黙ったまま、俯いた。そして、それでもコレは他人に渡せない、と一言呟いた。
「…そうですよね。それに、今の話を聞いて魔導書を渡されても、僕は困ります」
だって、僕は自分の力で姉さんを元に戻したいんですからと言えば、悪ぃな、と少し泣きそうな顔で頭を撫でられた。
どうしてラグナがそんな顔をしたのか、今の僕には理解出来なかった。
ただ、そんな顔をされたら何故か僕も泣きそうになった。