(やっと、やっと、追い詰めた。求めてやまない物が目の前にある。もうすぐ手に入る…!)
カグツチの路地裏を走ながら僕の口は自然と弧を描く。そして路地裏の行き止まりまで追い詰め、壁に背を預ける死神と対峙する。
逸る気持ちを抑えて笑みを作る。そしていつもの仮面を被り、手負いの死神に声をかける。

「さぁ、『蒼の魔導書』…渡していただけますか?」




-----

「っざけんな…ガキ。どっからその話聞いてきた?」
「抵抗するつもりですか?…無駄な傷が増えるだけですよ?」
「俺の質問に答えろッ!」

ガッ!と地面に剣を突き立てて死神は立ち上がる。その紅と碧の目は生を求めギラギラと輝き、気を抜くとこちらが喰われてしまいそうだ。
僕は近付こうとする足を止め口を開く。

「自己紹介が遅れました。僕の名前はカルル=クローバー。どこにでも居るありふれた咎追いですよ」

ニコリと笑うが、手負いの死神は警戒を解く気配を見せない。多分、分かっているのだろう、僕の隠している本性を。

「で、咎追いさんが俺に何のご用ですか?」
「先程申し上げた様に蒼の魔導書をいただけないかと」
「断る」

剣を構え、明らかな敵意を持つ目に射抜かれる。

「お前に直接恨みは無いが…『コレ』を狙ってくる奴に容赦はしねぇ。たとえ、ガキでもな」

言葉が言い終わらないうちに鋭い突きが繰り出され、慌てて攻撃を防ぐ。完全に防いだはずなのに死神の斬撃を受け止める度に体が重くなる。

「…っ!?」
「悪いことは言わねぇ、とっとと失せろ」
「怖いなぁ…そんな顔しないで下さい」

貼り付けた笑顔のまま、死神を観察する。追い詰めた時よりも明らかに血色が良くなり、いくつかの小さい傷はいつの間にか塞がっている…。これが死神…ラグナ=ザ=ブラッドエッジの秘められた能力なのだろうか。
しかし直接攻撃を受けなければ問題は無い…ゆっくりと、姉さんを起動させる。まだ相手は気付いてない。このまま攻撃を加え、背後に気を逸らす…!

「なっ…!」

重い一撃が死神の背中にヒットする。体勢が崩れた所を更に追撃する。

「何処を見ているんですか?相手は1人とは限りませんよ」

自分のペースへと相手を引き込めた!勝機が見えたと思ったその時、暗闇から氷の刃が飛来した。

「…っ!」
「おわっ!その攻撃…ジンかっ!?」

暗闇に向かって死神は問うが、返事は無い。

「おいガキ…少しの間、逃げるの手伝え」
「今まで戦っていた相手にそんな申し出をするなんて、変わった人ですね」
「それだけ余裕の無い相手なんだよ」

互いに背中を合わせる形で言葉を交わす。また何時、何処から攻撃されるか暗闇の中だと予測もつかない。
じっとりと嫌な汗が背を伝う。得体の知れない敵を相手にした事は何度もあるがここまでの相手は初めてだった。

「姉さん…、うん、うん。そうだね…現状を最良の方向へ変えていかなきゃね」
「オイ、ガキ…何1人で話して…」
「さて、貴方は相手を知っている様ですね。どんな方か、教えていただけますか?」

そう尋ねると、堂々と年上の話を無視するとは良い度胸だな、ガキと言われて頭を乱暴に撫でられた。被っていた帽子が落とされて不満気な顔をすると

「年相応の顔も出来るじゃねーか」

と笑われた。何故か嫌ではなかった。







人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -