「兄さん、にいさん…ねえにいさん、お願い…お願いだよ、僕を愛して」
そう、か細い声でジンは呟きラグナを抱き締めた。




【Dependence】



何も言わずラグナは一つ、深い溜息をついた。生憎慰めてやるにも両手は氷の枷で封じられ、下手に口を開けばジンの地雷を踏みかねない。(一応、口が悪いのには自覚はある)

「ジン…」
「ねえ兄さん、どうして?どうしてあの時僕を置いていったりしたの?」

名前を呼ぶラグナの言葉を遮る様に、くぐもった声で尋ねてくるジン。声色からどんな表情をしているか判断が出来ない以上、正直に話すほうが誤解を招かずに済む。そう判断し、口を開く。

「俺にはやらなきゃならない事があった。それにお前を巻き込みたくなかっただけだ」
「でもっ…!」

でも、僕は兄さんに置いて行かれたとしか思えなかったんだ。棄てられたとしか、思えなかったんだ!僕には兄さんしか居なかったから!あんな奴等、家族と思えなかった!
悲痛な叫び声がラグナの鼓膜を打つ。

「ねえ、髪の色も、目の色もお揃いだったのに…どうして?」

じい、とオッドアイの瞳を見つめる翡翠の両目。目尻にはうっすらと涙が滲んでいた。しかしジンの目はうっすらと狂気を孕んでいる様に見え、ラグナはすぐに視線を逸らす。
兄さんったら照れ屋なんだね、とジンは呟きラグナの銀髪を慈しむ様に梳く。

「そんなんじゃな…いっ!?」
反論しようとするラグナを黙らせる様にジンは髪を梳く手を止め、髪を引っ張る。自然と体勢が仰け反り首筋が露になる。

「どうして?ねぇ、どうして…あんなに綺麗な金髪だったのに…」

ちゅっ、と音を立てながら首に痕を残すジン。唇が首に触れる度にラグナはビクンと身体を震わせる。

「慣れない?兄さん…可愛いなぁ」

噛み付く様な口付けが合図の様に、ジンの行動は段々とエスカレートしていった。



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ぬるりと口腔に侵入してくるジンの舌。それは愛撫と呼べる様なものでは無くて、相手を蹂躙する様な、自分という存在を刻みつける様な、そんな乱暴なキス。互いの体液が交わり、ラグナの口の端から飲みきれなかった唾液が溢れて伝う。

「…っ、はっ!」
「逃げないでよ。ちゃんと僕を見て」

唾液で濡れたラグナの唇を親指で撫でる。自分と兄を隔てる己の手袋の布一枚ですら、今は憎いと思った。何もかも、そう、自分の肉体も、何も、兄を感じる為に不必要な物全てが憎い。ぐっと手袋を噛み、そのまま引き抜く。指先まで覆われたインナーも引き裂く。解放された手を見て、これで邪魔をする物なんて何も無い。そう思うと自然と笑みが零れた。

「…ジ、ン?」

ラグナは震える声で弟の名を呼んだ。

「何?兄さん」
「お前…、変だ」
「変なんかじゃないよ?」
「けど、お前はそんなんじゃ…!」
「兄さんも…本当の僕を見てくれないんだ」

そう言ってジンはゆっくりとラグナを抱きしめる。

「誰も、誰も本当の僕を見てくれないんだ。兄さんだけはそうじゃない…そうじゃないって、思っていたのに。兄さんも、他の人と一緒だったんだね」

ぐっとラグナの肩を掴み、突き飛ばす。両手を拘束されている為、ラグナは無様に床に倒れるしか出来なかった。

「ねぇ、お願い。兄さん、僕を愛して…。違う。違う、こんな風にしたい訳じゃ無いんだ。兄さんを困らせるつもりじゃ…。違うの、兄さん、お願い、嫌いにならないで!置いていかないでっ!」

頭を抱え、静かに蹲るジン。持ち主の精神の不安定さと同調しているかの様に、ラグナの両手を拘束している氷の枷がパキリ、と儚い音を立てて崩れてゆく。自由になった両手をラグナは見つめ、そして蹲ったまま動かないジンに近寄る。

「…ごめんなさい。兄さん…、こんなつもりじゃ。こんなつもりじゃなかったんだ」
「いい。謝るな」

そう言ってぽすんとジンの頭に手を置く。何度か撫でてやると、呟いていた言葉も止んだ。そういえばこうして頭を撫でてやること自体久し振りだとラグナは思った。幼い頃は泣き虫だった弟をあやすためによく撫でてやっていたのに…。

「大きくなったんだな」
「何、が?」
「お前が」
「ぼく…?」

顔を上げたジンは酷い顔をしていた。目の周りは少し赤く腫れていて、ジンの悲痛な叫びを物語っている様に見えた。眉を顰め、くしゃりとジンの髪を撫でると、どうしたの?と尋ねられた。

「何でもない」
「本当に…?」

撫でた手を戻そうとした瞬間、ジンの両手に掴まれた。放すまいと、爪を立てられる。服の上からでも嫌という程分かる。

「兄さん お願い、僕を愛して」



じゃないと、僕、狂ってしまいそう。





兄さんを殺してしまいそう!


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