※簡易設定
・黒カルル…強い人を求めてカグツチを徘徊する殺人鬼。戦い>姉さん
・黒ジン…俺様何様ジン様。部下のノエルは有能な駒。障害じゃない
・黒ノエル…出てないけどジンの優秀な部下。ドジっ子成分控えめ





【幼き殺人鬼】






路地裏で鈍い音と男の醜い呻き声が響く。細い路地には大の男達が所狭しと立ち塞がり、中心に居る少年を取り囲む。

「全く、こんな子供1人に対してそんなに大勢で…大人として恥ずかしくないですか?」

少年の口から紡がれた言葉は挑発的で、取り囲む男達を煽るのには十分だった。1人の男が飛びかかると次々と他の男も続いてゆく。

「醜いですね。ボクが求めるのは…こんなモノじゃない…」

パチンと指を鳴らせば、それまで静かに後ろで佇んでいた人形が姿を変え、ゆっくりと少年の前へと歩み出る。

「姉さん、後はお願いね」

パチンと再び指を鳴らせば、飛びかかってきた男達は全て人形の伸びた爪に串刺しにされ、絶命した。

「あーあ、汚れちゃったね、姉さん。戦いを求めても…相手は醜い旋律ばかり。つまらないね」

そう吐き捨て、地面に横たわる死体を蹴り顔を見る。まだ僅かに息があるのか唇が震え、何かを紡ごうとしている。

「なあに?ボク、弱い人には興味は無いの。黙ってくれるかな…」

グッと少年が手を引くと、側に居た人形が片腕を振り上げる。男はどうにかして抵抗を試みるが、無駄な足掻きにしかならなかった。

「無様に死ぬといいよ」

それを合図に男の頭は叩き潰された。








「はぁ…つまらない。結構有名だったからさぞかし強い人の集まりかと思ったのに…期待外れだったよ」
「おい貴様。そこを動くな」

突然聞こえた声。それは冷たく路地裏に響いた。

「はい、何でしょうか?」

朗らかに少年は返事をするが、声の主からの返事は無い。不思議に思い一歩を踏み出すと巨大な氷の刃が眼前に迫っていた。

「…っ!姉さん…!」

慌てて横に飛び退き人形を動かすが間に合わない。大きな音を立て路地裏の壁が抉られる。そして一瞬にしてその場は冷気に包まれた。

「無駄な抵抗はよせ。人形は壊れた。残るは貴様だけだ」
ようやく表れた声の主は黒一色の服に白い髪がひどく印象的な青年だった。真紅の瞳を少年に向け、先程の抜刀術で使用したであろう刀を鞘に収める。

「何者ですか…お兄さん?」
「貴様の目的は何だ。我々統制機構が定めた規律を守らず罪人を狩る卑しい咎追い風情が」
「なあんだ、案外ボクって有名になってたんですね」
「質問に答えろ」
「ふふっ…目的…ですか?簡単ですよ」

少年は屈託のない笑みを浮かべ、青年を見る。

「お兄さんみたいな強い人に会うためです」

その声も顔も姿も幼い少年なのに、紡ぐ言葉はまるで不釣り合いな物で、青年は厄介な奴だと声には出さず代わりに眉間の皺を増やした。

「前にも、お兄さんと同じ様な事を言うお姉さんと戦ったんです。確か…二丁銃を持ったお姉さん。それなりに強かったですけど…やっぱり物足りなかった」
「貴様か、僕の駒を使い物にならなくしたのは」
「あら、お兄さんの部下だったんですか?あのお姉さん」
「駒だ」
「じゃあ…お兄さんはもっと強いんですね…」

子供の様な屈託のない笑みは消え、恍惚ととした笑みを浮かべる少年。それは子供の様な可愛らしいものではなく、殺人鬼と呼んでも過言ではなかった。

「ねぇ、お兄さん。ボクに最高の旋律…聞かせて下さい!」

タンッ、と少年は駆け出し青年との距離を詰めカラクリによる重い一撃を放った。

















「あ゛っ…が、はっ…!」
「フン、口程にも無い。立て…」

倒れた少年の胸倉を掴み、引き起こす。虚ろな赤い目とカチリと視線が合った瞬間、少年の口が弧を描いた。

「ふっ…ははっ…!あははははは」

少年の笑い声が路地裏に響く。まるでネジが外れてしまったと思うくらいに。

「何が可笑しい」
「ははっ…いえ、ボク、初めてなんです」

口の端から流れる血を拭い、少年はニイと笑う。

「こんなにも、強い人と戦えるのも、ここまで圧倒的な力を見せつけられるのも全部、ぜんぶ初めてなんです!」

そう言うのと同時に少年を掴んでいる腕に傷が生じる。
「チィっ!貴様…」
「あはっ、油断しちゃダメですよ…お兄さん?」

一瞬の隙を見て少年は青年の拘束から逃れ、人形の元へと走る。それを見て自分の腕を傷付けたものの正体がそれであると気付く。

「貴様ッ、待て!」
「お兄さん、とっても楽しかったですよ…。また、会いましょう?」

少年は屈んだ人形の膝に腰を下ろし、路地裏から空高く飛び上がった。

「きっと、お兄さんならまたボクを見つけてくれる。その時は、また…遊んで下さいね」

どこからともなく聞こえる少年の声に苛立ちを隠せず、愛刀を地面に突き立て舌打ちをする。

「子供だからと油断したのか…この僕が?」

傷口から流れる血を振り払い、青年は路地裏を後にした。

残ったのは激しい戦いの跡と、むせるような血の臭い。しかし悪い気はしなかった、いやむしろ気分は高揚しているくらいだ。逃げられたという事実より、再び嗅ぎつけて今度こそ止めを刺してやる…その気持ちの方が大きい自分に驚く。

「ははっ…待っていろ…薄汚い咎追いめ…!」





-----

「ねぇ、姉さん。あのお兄さん…とっても強かった…」

人形に抱きかかえられ、カグツチの空を行く少年がポツリと呟く。

「とっても強くて…すごく…楽しかった…!」


青年に付けられ、じくじくと疼く傷を撫でながら少年はうっとりと目を細め、

「あぁ…早く、はやくまた…殺し合い…したいなぁ………お兄さん」

そう、呟くのだった。




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -