静かにジンの形の良い唇が弧を描き、呟く。


「    」


ユキアネサを抜刀し、鮮やかに舞い、地面へと刀身を突き立てる。
その動きのひとつひとつが、ラグナにはコマ送りの様に見えた。

翠の瞳とカチリと視線がぶつかった瞬間、氷塊の檻へとラグナは閉じ込められた。






カチン、と乾いた音を立ててジンはユキアネサを鞘に収めた。
辺りは冷気に包まれ、ひやりとした空気がインナーに覆われてない肌をチクリと刺す。
凍りついた地面を踏みしめながら、ジンはゆっくりと氷塊の檻へと歩み寄る。



「ねぇ、兄さん…にいさん?どうして黙ってるの?こんなにも近いのに…」

そっと愛おしそうに、ジンは氷の檻をなぞる。
自分よりひと回りも大きいその中には先程まで刃を交えた兄、ラグナの姿。
紅と翠の瞳は真っ直ぐにジンを見つめる。だがその瞳が動く事は無い。

「兄さん、どうして?僕達の邪魔をする奴は、障害は、全部殺したよ。
それに僕は兄さんより強くもなった。これからはずっと、ずっと守ってあげる」


にいさん

あと


あと僕には何が足りないの?





どうすれば振り向いてくれるの?






どうすれば、僕を見てくれるの?



氷塊の檻に閉じ込められたラグナにジンは縋り付く。
どうして、どうして、と壊れたテープレコーダーの様に何度も呟くが答えが聞ける筈も無く、辺りは静寂に包まれる。



静かに頬を伝う涙は氷の結晶となり、凍りついた地面に落ち儚く砕けた。






【愛は嘆きの河より深く冷たく】






不器用で愛情表現の下手な弟を
閉じ込められた檻の中で愛おしいと思った






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