男主 | ナノ


三月。私達立海大付属中学の三年生は、もう間もなく卒業式を迎える。
立海はエスカレーター式なのでそのまま高等部に上がる生徒が殆どであるが、外部受験した人も今年はかなりいたようで、浮かない顔をしていたり早くも涙を流してしまった女子がいたり等、しんみりとした空気が広がっていた。
そんな中、私はこの月になって少し後悔している事がある。
三年C組の幸村精市君。私はこの人に片思いをしているのだが、今まで何一つとしてそれを実らせようと行動に移した事がない。
というのも、彼はこの学校に入学する前から有名な人物であった為か瞬く間に生徒中の人気者になり、私が自分の恋心に気付いた時は既にたくさんのライバルという名の壁が出来上がってしまっていたんだ。
例えるなら、ごく一般市民が人気アイドルに恋をしたような、そんな道の険しさがあった。
話しかける事はもちろん、アプローチの一つ二つ出来る事はなかった。
二年の冬になって彼が難病に倒れた時だって、一度もお見舞いに行かなかった。
行こうと思って足を踏み出そうと試みても「きっと迷惑だろう」、「顔も知らない人に突然見舞われたらどう思うだろう」「そっとしておいた方が彼には負担にならないんじゃないか?」と怖くなってしまって、勇気を出せなかった。
唯一した事といえば、毎年全国大会を観に行ったくらいで……。本当に何もしなかった。

でも、やっと、中学卒業を間近にして、何か一つくらいはやりたいって思うようになり、彼の誕生日の三月五日に何を贈るかで、ああでもないこうでもないと悩みを抱えた。
高校生になったらきっと彼女を作ってしまうかもしれない、今よりもっと忙しくなって話し掛けるチャンスがなくなってしまうかもしれないと、焦りの気持ちもあったけど。
でも、中学を卒業する前に、何か一つだけでも一生の思い出に残る出来事が欲しかったんだ。
例えそれが悲しい結末になったとしても、三年間見ているだけでだらだらしていた自分を嫌うよりはずっと良い。
他の女子が勇気を出して頑張ったように、私も頑張らなくちゃ。そう思った。

「……プレゼントは、サイズ的に小さい物の方が良いよね……」

学校に持ち込む物で相手に迷惑にならないもの。スクールバックに入る物が良い気がする。
何が好きかって考えるとテニスしか思い浮かばないんだけど、だからといってスポーツ系のものを贈るのも……嫌だな。何を贈れば良いのか全く分からない。
いや……そもそも、誕生日プレゼントというのは、何が大切なんだろう?何を贈るか?何を伝えるか?

(……私は幸村君に、何と言って渡したいんだろう。何を伝えたいんだろう)

貴方が好きでした……違う。貴方の退院をとても嬉しく思います……違う。高校生になってもよろしくお願いします……全然違う。
おめでとうの一言で片付ければ良い? ……それもちょっと、違う気がする。
幸村君ならこういう時、どう思って贈り物を用意するだろうか。幸村君にとって一番大切な事は?
幸村君の仲間達がしていた事と、幸村君がしようとしていた事。 ……全国大会。

「……」

おめでとうの言葉だけ 1
「#寸止め」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -