前回までのあらすじ!

私アドルファス=スペンサー=アナステシアスV世 もうすぐ花の25歳かっこ子持ちかっことじ! 10年前に出会った運命の人かっこ隊長ただし年齢と苗字は実は知らないでもかっこいいこの世のものとは思えないほどに格好良い世界中の言葉を集めても表現しきれないほど格好良い好き好き大好きパンツくださいハアハアハアかっことじと愛の告白とちゅーと運命の赤い紐パンツによって結ばれ私と隊長のめくるめくらぶらぶ新婚生活がスタートしたのであった! まる!


「らぶらぶ新婚生活が! スタート! したのであった! 大事なことなので! 二回言いました! ぐふー!」


ああ、新婚ってなんていい響きだろう、胸がきゅんきゅんして顔が勝手ににやける。さっきまでの憂鬱な気分もどこかに吹き飛んでいくような気がした。腹筋に力を入れ、交差させた腕が立て膝につくまで上半身を持ち上げる。ふう、とひとつ息を吐きだすと布の中で籠って少し蒸れた。


「……」
「あ、隊長おかえりなさーい。あなたのアドルファス=スペンサー=アナステシアスV世がベッドを温めておきましたよ」


眉間に深く皺を刻みこちらを睨みながら靴音を響かせて近付いてくる隊長は今日も素敵だ。隙間から見えているだけなのに十分伝わってくるこのカッコよさ。ふう。


「……おい」
「なんですかー隊長?」
「お前は俺の寝台で一体何をしている……?」
「えっ、上体起こしですけど」


分かりやすいように、ふんすと上半身を持ち上げてみる。少し息が上がるのはご愛嬌だ、最近身体が鈍っている自覚はある。


「よし、よく分かった。殴る」
「えっちょっと何が分かったんですか隊長えっなんで馬乗りになるんですかあっ逃げられない!」
「お前が反省も自制も出来ない変態だという事が分かった」
「ちょっと待ってください隊長私今日割と本気でへこんでいるのだから少しくらい慰めてくれたってでも今日も隊長の愛が痛キモチイいややっぱりものすごくいたいいたい頭掴んじゃだめですアドルファス禿げちゃうあと今はお腹も触っちゃだめで、」


――ドゴオォオオッ!


「ギャヒィィイィイイイン!」


隊長の拳が振り下ろされて、いつものように私の肋骨と寝台が悲鳴を上げた。おかしい、私まだ何も悪いことしてない、私はただ上体起こしで腹筋を鍛えていただけ。そう、それだけ。


「俺の下穿きを被ってやる必要があるかぁああああああ!!」


えええだってやる気を出すためにはこれしか無いじゃないですか当然の装備で挑んだまでじゃないですか私何も悪くない、そう心の中で高らかに主張するもその思いは届かず顔からパンツを乱暴に剥ぎ取られる。人体の急所眉間を思い切り弾く隊長の指の感触を遠くに感じながら、私は意識を手放した。



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さて、事の起こりは今日の昼休憩に遡ったりする。


『あー……もう働きたくない……』


政務室の窓から望む空は恨めしいほど高く青い。ここ最近は会食や夜会の予定はなく、隣国その他親しい国への出張もない。つまり、必然的に部屋に引きこもって書類を片付けていくだけ。だけ、なのだが、何故かこれが一番疲れる。認可を出すために自分の名前をつらつらと書いていくだけの簡単なお仕事は私の精神をがんがん削っていくのだ。だって書類仕事って特に駆け引きはないし萌えないじゃなかった燃えない。私の名前は何故こんなに長いのだろうかと理不尽な怒りに燃えるのも仕方がないことだと思う。書きすぎて指が痛い。

『嗚呼、水の聖霊アニーよ私に午後からの書類地獄を乗り切る力を与えたま』
『おとーさまー!!!』
『え……ティー?』

バン、と大きな音を立てて扉が開き、私よりも若干色素の薄い癖っ毛がふよふよと揺れる。天使だ、天使が降臨した。天に祈りが通じた。今日もうちの子は世界一可愛い桃色のワンピースがとってもプリティ。


『あのね、おとーさま』
『うん?』
『んしょ』
『どうしたんだい』
『あのね……』

よじよじと私の膝に登るやいなや、私のお腹をじっと見つめる愛娘。意を決したようにその紅葉のような愛らしい手を伸ばし、腹部をふに、と揉んで、神妙な顔をし、そして。


『……おとーさま、やっぱりふとってる』


爆弾を、落とした。

その感触がツボにはまったのかふにふにと揉み続けながら、前よりおなかやわらかいの、と首をかしげて不思議そうに見上げる膝の上の天使に、私は。私は。わたしは。



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「わたしはぁあああああああああああああああああああああああ!!!」
「五月蠅いもう夜だぞ静かにしろぉおおおおおおおおおお!!!」


せっかく回想を終えて現実世界に帰ってきたのに綺麗に顔面に決まった隊長の拳によって私は再び意識を飛ばしたのであった、まる。




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