「いただきます!」 「いただきます。」 「いっただきまぁーす!」 「まぁーしゅ!」 「……。」
炒めた飴色玉ねぎとキノコそして兎肉を閉じ込めて、じっくり焼き上げたミートパイ。さくさくと切り分けたそれを子供たちと自分の目の前の皿に取り分けて、クロスの敷かれたテーブルに季節の花を飾る。小さな薔薇園は満開で、すぐ近くに人数分の白いシーツが干されて風にそよいでいた。
「……狩りの邪魔をされた……。」
これしか手に入れられなかった、とドラゴンはふて腐れ、むすっと頭を垂れている。
「何よ、美味しいじゃない、兎。」 「うん、美味しいよね。」 「そうだよおいしいよードラゴンー。」 「おいちーよー。」 「むしろアンタのその図体でこんな小さな兎を見つけて捕まえられる方がすごいんじゃないの、誇りなさいよ。」 「ワタシは竜だから、それしき造作もない……。」 「そういうもん?竜ってよっくわかんねーわねー。」
むしゃむしゃとパイをほおばる親子に竜は申し訳ない気持ちが募る。エイリーンの家は人数が増えてにぎやかになって来たから沢山沢山捕って、エイリーンを笑わせてやろうと張り切っていたのに。
「アイツに邪魔をされなければ、もっと捕れた。ワタシは、ワタシはもっとやれたはずなのに!」 「はいはい、わかってるわかってる。」 「流さないでほしい。アイツが悪い。アイツが」 「誰よ、その、さっきからアイツアイツって。」 「アイツ。……待て、何故、ついてきている。」
ドラゴンが鼻先で天を示すと、上空から赤い影が降り立った。風圧で飛ばされていくシーツ。白い雌竜よりも一回りも二回りも大きい赤い雄竜が、重々しい空気を纏ってドラゴンとエイリーン達を見下ろす。低く唸り牙を剥く白い竜。エイリーンの娘はドラゴンがふたり―、と幼い笑顔を見せた。
「相も変わらず無礼だな、白薔薇の。百年ぶりの再会を祝して、この俺様がわざわざ未来のつがいの狩りを手伝ってやっただけじゃあねえか。」 「お前、狩り、下手糞。そして、ワタシは白い竜だ。お前のつがいにはならない。何百年も前から言ってる。しつこい雄は、嫌いだ。」 「なんだよ、人間なんぞに入れ込みやがって……。そんなにお前がこいつらに縛られているなら、俺がこの場で全員噛み殺してやってもいいんだぜ。」 「…………あ?」
ぶっちん、エイリーンの耳に、ドラゴンの堪忍袋の緒が切れる音が聞こえた気がした。白い竜は、首を一振り、勢いをつけて赤い竜の首元に齧り付く。
「何をしやがる!俺はお前の為を思って!」 「いらない!お前、許さん!」
小山のように大きな竜が二体組み合えば、辺り一帯を揺るがすほどの地響きが起きた。けれど、食卓を囲む人間たちはそんなこと意にも解さない。エイリーンは呑気にがんばれーと声援を送り、子供たちもやんやと小さな手を振る。本気で首を噛みちぎろうとする白い竜に対して、防戦一方、牙を剥いて威嚇をしながらもまったく反撃出来ない赤い竜。
「うーん、惚れた相手に手を上げられないのは、人も竜も一緒なんだねぇ。」
エイリーンの夫はのほほんと呟いて、パイの最後の一欠けを口に放り込んだ。
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