Short×2+Story 短編未満とかネタメモとか。 「 世界を救えなかった勇者の話 」 ツイッターで呟いていた魔王×勇者。 タイトル通り暗い話。 ――ギィ、と木が軋む音で目が覚めた。いつの間にか突っ伏して眠っていたらしい。眼前には、大地を踏むことを忘れた足が二組垂れ下がっている。 私が魔王に破れて故郷に戻り、「両親」が首を吊って久しい。魔物の蔓延る世、屍は未だ埋葬すら許されず、屋内で腐り揺れ続けている。もう慣れてしまったが。 今日も閂で錠をした扉は罵声と暴力で揺れている。外からは相変わらず「勇者」を罵倒する民衆の声が聞こえ、時折それが悲鳴に変わる。生きながら喰われているのだ、魔物に。 助けに行かねばと「勇者」の本能が訴えるが幾ら剣を握ったとてそれはかなわない。私の両足は魔王に喰われてしまったのだから。 蔓延る魔物。役立たずの「勇者」。この世界にもはや安住の地はなく、みな自分が喰われる前に魔物が満腹になるのを祈ることしか出来ない。そう、私が世界を救えなかったから。乾いた笑いが一人きりの部屋に浮かぶ。 魔王討伐の為あれほど造られた「勇者」も、もう私だけになってしまった。私は一人だ。 「見ているんだろう」 物心ついたときから「両親」という目付け役に閉じ込められ、鍛えらえ、「勇者」として魔王を殺す為だけに生きてきた。それが自分の存在意義だと信じ。兄弟の屍を踏み砕いてでも戦い続けることが正義だと信じ。 「見テイルとモ」 それでも勝てぬのなら、私という存在は。 「見テイタとモ」 反響する低い声、影は蠢き形を成す。闇を引き摺り現れた魔王は私の頬を撫で、目を細めた。 「ずっト、見テイタとモ。折角、生かしてオイタのだカら。楽しイことニナッタダロウ? 己ノ言う通リ、玩具にナッテイレバ良カッたダロウ?」 十二の眼が私を写し、愉しそうに嗤う。 眼の中の私の影は歪み、過去を語り始める。 『生きてさえいれば、いつか殺す機会が』 罵声。自殺。 『生きてさえいれば、人を守れ……』 罵声。暴力。命だけは奪われない。 『生きてさえ、いれば……』 罵声。暴力。左腕はほぼ動かなくなった。罵声。悲鳴。罵声。耳を塞ぎ、鍵をかけ、伏した。 「やハリ、己ノ玩具にナッテイレバ良カッたダロウ?」 目を背けて頭を振る。もうやめてくれ、そう叫びたい気分なのに言葉は声にならなかった。それを見て魔王はくつくつ嗤う。私の頬を指でなぞり、低く嗤い、嗤い、嗤い。 「愛してやると言っているのに」 嗤い、唐突に嗤うのを止めた。 「毎日綺麗な服を着せ、食事も手ずから食わせ、全てから守ってやろう。何が不満だ? 何故堕ちてこない?」 何故って私は、勇者、で。守らなくてはいけなくて。愛、という言葉に甘やかな眩暈がして唇を噛む。 「勇者、か」 魔王が嘲る。その向こう側で宙吊りの死体が揺れる。軋む。 認められたかっただけの癖に。居場所が欲しかっただけの癖に。愛されたかっただけの癖に。そのために、生まれ持った「勇者」を手放せなかっただけの癖に。愚かで憐れで矮小なお前。違う。違う、私は、私、は。木が軋む。脳が軋む。軋む。もはや誰が話しているのか分からない。唇が塞がれる感触が最後。 ――ギィ、と寝台が軋む音で目が覚めた。いつの間にか眠っていたらしい。眼前には、私の輪郭を指でなぞり覆いかぶさる魔王。 「愚カデ憐レで矮小デ可愛イお前」 気だるい身体を叱咤してその巨体を押し返そうとするが、ふと見れば両肘から先がなく。対してくつくつ嗤う魔王の口元は真っ赤で。 魔物のおぞましい叫び。人々の罵声。悲鳴。そんなものはもう聞こえない。何も聞こえない? 魔王の紫色の舌が眼球をべろりと舐める。 「愛でラレルたメの器官ダケヲ残しタ、可愛イお前」 幸せだろう? そう脳に直接問いかけてくる魔王の声。聴覚が、嗅覚が、正常な思考が潰されていく。 潰れていく。もう剣を握らされることも罵られることも罪悪感に苛まれることも無いのか。何も出来ない私は、ただ彼に愛でられていればいい。それは、それは、なんて。 「しあわせ……」 唇を塞がれ、私は喜びの吐息を漏らす。わたしはしあわせだ。頬を伝う雫が何なのかは、もう分からないけれど。 16.02.07 16:26 sato91go ×
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