Short×2+Story 短編未満とかネタメモとか。 「 雨の降らない村 」 即興小説トレーニング(15分)で書いたもの。 間に合いませんでしたのでこっちに。 ※お題「鈍い村」 「雨は止んだ。」 女は真白い服を着て、笑う、わらう。 「むかし、むかし。異常なまでの日照りは続き、村は飢えるようになった。出稼ぎ、口減らし、姥捨て。どうにかこの危機を乗り越えようと村は必死だった。」 男は濡れた鱗を輝かせ、笑う、わらう。 「口減らし、口減らし。我が子を殺されまいと村に反抗する親は、半殺して案山子にした。そうして害鳥が減り口が減り、なんとか生きていけるようになった次の年、圧し掛かったのは例年よりも重い年貢。」 女は地に伏した人々を見て、笑う、わらう。悲しそうな目をしたまま、笑う、わらう。 「年貢を収めよと言われても雨は降らない。雨が降らなければ作物は育たない。雨を降らせるために生贄を用意した。この時の為に唯一殺さなかった女童だ。水を司る龍神様に捧げ、雨を頂くのだ。身を清められ死装束を着せられ、童は水底に沈んでいった。」 男はもう笑っていない。鱗と衣が擦れる音。 「ここまでは、知っているな。ああ、己れも良く知っている。散々惨状を聞かされ、嘆かれ、どうか助けてくれと、三年も泣きつかれたのだから。この生贄の女に免じて、機会を一度だけやろうと思った。」 男は笑っていない。干からびてひび割れた大地に、鱗持つ男と白い服の女だけが立っている。 「だが、お前たちはその機会をふいにしたのだ。この女を返してやっても、『村』の決めたことだから仕方がないと誰も責任を取ろうとしない。それどころか疎んじた。みなで石を投げた。一夜殴り通した。辱めた。重しを付け水底に沈めた。お前たちが、この女が言うように善良で哀れな人間であれば、救ってやろうと、思っていたのに。」 男は笑っていない。女を護るように一歩前に出、痩せこけた人々の顔を見下ろしている。 「『村』とは誰だ。それはお前たちだ。」 救ってやろうと、思っていたのに。龍神は怒りと落胆を口から吐き出して、雲全て喰らった蒼天を仰ぐ。 「故に、雨はもう、降らぬ。」 生贄の女はわらったまま、男の袖を掴み静かに涙を流す。頬を伝って落ちたその雫が、村に降った最後の雨になった。 15.12.29 02:38 sato91go ×
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