Short×2+Story 短編未満とかネタメモとか。 「 壊れるのならばせめて花を 」 即興小説トレーニング(15分)で書いたもの。 ※お題「スポーツの木」 泣いた。いくら大きく揺すぶっても、出来るだけ彼を傷付けないように気を付けて斧で切り離そうとしても、正太郎の膝から生えた大木はびくともしなかった。それが悲しくてまた泣いた。正太郎は何でもないことのように泣くなと呟いて、その枝の先にぽん、と鮮やかな花を咲かせた。 「これはお前に」 ぽん。花が咲く。正太郎は武骨な男だった。昔から手先も人付き合いも不器用で、人より秀でて出来ることと言ったら運動くらい。運動神経の伝達速度にも体格にも恵まれ、彼はスポーツなら何だってエースだった。彼は不器用だけれど根は実直で真面目な男だったから、周りの人間からの人気も高かった。 「これはお前に」 「要らない……!」 ぽん。花が咲く。正太郎は手を伸ばしてそれを毟る。己の掌に乗せる。私に差し出す。そんなもの要るものか。そんなもの。そんなきれいなもの。私は泣いた。正太郎は何だってできたけれど、一等野球が好きだった。頭を坊主に刈り込んで、土と汗の匂いに塗れて太陽の下を駆けていた。小高い山に乗って銃弾のような球を投げた。それが私には、ひどく、ひどく眩しかった。 「そんなもの要らない! 私はお前の……」 ぽん。花が咲く。正太郎は毟ったそれを所在なさげに弄ぶ。私は泣いた。正太郎は、花を持っていない方の掌で私の頭を包み込むように撫でる。 「真魚子」 「なに」 「俺の膝はもうとうの昔に駄目だ。知っていた。それでも少しくらい無理をしようと思った」 「なぜ」 「だってお前、あそこに立っている俺が好きだったろう。投げている俺が好きだったろう。真魚子」 「なに」 「けれど、花が咲いたのなら、うん、良かっただろう。お前の好きな花が咲いたのなら」 ほら、と私の頭に赤い蝋梅を散らして、綺麗だ、と硬い表情を緩めて笑う正太郎を、私は、どうなったって嫌いになる事なんてできやしないのに。膝から生えた大木の葉々が、風に揺れた。 15.03.03 00:40 sato91go ×
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