Short×2+Story
短編未満とかネタメモとか。



「 捨てられない為に捨てといた 」


即興小説トレーニング(15分)で書いたもの。多少修正済。

※お題「捨てられた新卒」






「ポイ捨てって良くないと思うんですよ、俺」

 他課にも優秀だと評判を轟かせる新人、もとい俺の部下は缶コーヒーを傾けながら呟いた。ごく普通に世間話をするようなトーンでそんなことを言うものだから、そうか、と気の無い返事を返し、煙草を一本取り出す。いつものジッポが無い。察したように安物のライターが差し出された。

「次は会議だぞ」
「そうですね。課長が一服し終えて、俺がこれを飲み終わったら立ちましょう」
「ん」

 無糖のコーヒーを流し込みながら、彼は向かいに陣取った。ねえ、課長。呼びかけられたので、ライターから目線だけ挙げ、煙草をくわえる。

「ねえ、課長。俺、ポイ捨てって嫌いなんですよね。良くないと思うんですよ。最後まで責任を持たないってことでしょ?自分のケツも自分で拭けないって笑っちゃいますよね」
「お前、綺麗な顔の割に意外と毒舌だよな」
「綺麗ですか、ありがとうございます。ねえ、課長、今日、事務の娘と随分楽しそうに話してましたね?」

 空になったらしい缶をゴミ箱に投げ入れて、長い指で俺の掌をなぞる。ねえ、課長。

「俺の事食うだけ食っといてポイ捨て、なんて、そんなことしませんよね?」

 懐から、銀色のジッポを取り出して見せて、笑う。それは、俺の。

「お前はいつからそんな重い子になったんだ……」

 全ては愛ゆえですよ、ねえ、課長。彼はうっとりとした声音で囁いて、煙草を奪う。まだ緊張と期待でキラキラと輝いていた新卒時代の彼を思い出す。彼がその顔を捨ててきたのは、ああううん、俺の所為、か。溜息をひとつついたら、彼は笑って煙を吹きかけた。



14.02.07 03:21  sato91go