短編

リリカルには少したりない夜片


Attention
※当作品には性的描写が御座います。実年齢が18歳に満たない方、義務教育を終えていらっしゃらない方、過度な性表現をご期待の方はお引き取り頂きますようお願い申し上げます。
※ヒロイン:警視殿の後輩。


警視殿が私のアパートを訪ねるのは決まって夜で。今夜もまた例及び約束に違わず、扉が叩かれるのは空から太陽が追い出されてからだった。
先輩であり上司でもありながら驚く事に歳下である警視殿は、12歳のその歳らしい顔にらしからぬ表情を湛え、らしからぬ立ち振る舞いで私の質素な寝具に腰を下ろす。警視殿のしなやかな体躯が纏う外の香りは、歩むと揺れ動く室内気を伝い、私の鼻腔まで届いた。外の風の香りが空気に溶け落ちて完全に消え去る頃には私は彼の隣に居られるだろうか。

「コーヒーは……、やめておきましょうか。夜ですし。お茶を入れますね」

茶葉は私達分の二杯に加え、硝子製ティーポットへの感謝の一杯を余計にプラス。既に用意してあった熱湯はカップにも注いだ。酒を注ぐグラスを予め冷やしておくのと同様に保温するのだ。寝具傍の傍机に並べられた容易ティーセット一式は、値の張るものこそ紛れてはいないがいずれも私自らが選んだ自慢の陶器や茶葉である。狭いポット内を飛び回り、跳ね回り、踊る、風に煽られ空へ巻き上げられる木の葉のような、茶葉の姿をなんとはなしに眺めていた。

「……キミの郷土は硬水だったか。茶葉から抽出されにくいそうだが、イッシュは軟水だ、その一杯は不要らしい」
「えぇっ! 恥ずかしながら存じませんでした。今回は水を足します、ご容赦頂けません?」

徐ろに助言を与えてくださった警視殿に不完全な紅茶を差し出すのは大変申し訳なく思うが、硝子ポットの中で良いジャンピングを繰り広げている茶葉を流し台に廃棄する方がすっかり情を移してしまった今、気が引けてしまって。強いられてもいない言い訳を唇に載せていた。

「負け惜しみのようですけれど、ポットのための一杯というのも理由としては十分じゃないでしょうか。付喪神という存在もある場所はあるそうです。ポルターガイスト現象に加担するのは癪ですが、住み着いた精霊に気まぐれに恵んでやるのは悪い気は致しませんもの」

ね。そうでしょう。


女優という肩書きを纏って潜り込んでいるポケウッドの捜査状況を報告。しかしまどろっこしく堅苦しい綴り方に反して、今回もまた「子役の女児や同業者のご家族、近隣住民を隈なく調べ上げたが、めぼしい人物は見当たらなかった」と変わり映えしない無進展の現状を述べるだけである。
ひと段落を迎えると警視殿がティーカップに口付けた。今まさに私の淹れた紅茶が嚥下されたところか、と。ごくり、と微かに動く細い少年の喉を一瞥し、その内側に想いを馳せた。シュガーポットを開き、カロリーと糖質の固形物をティーカップの中に溶かす。人からは多過ぎると心配すらされてしまう砂糖量が私の常。それでも拘りを持たない訳ではなく。ストレートを一口味わい、次いで砂糖を加え混ぜて行き、最後にミルクを垂らして赤みの強い水面を染めるのだ。段階的に変化する味で舌を楽しませる。喜びに満ちた味覚も待ち侘びた細やかな楽しみも、後味が如く口腔に残留する報告書の小難しい文面に直ぐに掻き消されてしまうのだが。

「なまえ」

呼びかけに「はい」という強張った応答を返した唇も、警視殿の瞳から意図を悟ればもう一度、しかし今度は砂糖を溶かし込んだように甘やかな響きを伴って。
肉薄する警視殿のキスを受け入れる。口腔の輪郭をそっと確かめられて。

「どうかされました?」

垂れ目がち故の愛らしさを含む端正な顔がいつにも増して険しいものだから、どうしたのかしらと覗き込んでみる。

「砂糖の量はどうにかならないのか? 甘い」
「どうにも、なりませんねぇ。そんなにでしたら舐め取ってしまわれたら、」

いいではありませんか。

カーテンの隙間から煌やかな星屑の存在が窺い知れる。シーツに溺れて抱き合い、そして目覚める頃には太陽がそこにはあるのだろう。僅かな隙間から照らし出して瞼をこじ開けさせる太陽に、きちんと締め切らなかった事を朝には後悔しているのだろうと思いながら。
委ねる。

――ねぇ、警視殿。もし任務で女子を抱く事になっても私には何も仰らないでくださいね。
乞い願う。


未熟な私の窪みを押し拡げる彼の指もまた成熟してはいない。スクエアカットの爪の尖にびくりとした。
ほどかれた窪みは待ち望んでいる。焦がれるほどに望んだ熱は私の潤う目配せで与えられた。私は処女ではなくとも少女ではあった。慣れ切らない息苦しさに恋人の存在を求め、深い繋がりで感じ取りたがる。意思を汲み、警視殿は私の躰を抱き上げて自身の脚を跨がせる。数度下から突き上げれば自然と重力が手伝い、より深くまで沈めるから。もしや子宮に達したのではないかというほどの奥を触れられた時、数瞬間だけ視界の一部が褪せた。溢れ出る歪な悲鳴。背筋は再びシーツに埋もれる。
果てる時って、やはり、全身が引き攣って痙攣したようになる。
酸素を欲しがる肺には悪いが、私の身体をひっくり返す警視殿に私はされるがままだった。そのために一度引き抜かれた秘部は穴を持て余して空気を迎え入れるが、熱い内側の肌には些か不躾のようで。警視殿のイロを象らされていた私の窪みが徐々に姿を戻し始めようとしたとき、再び背後から忍び込んでくる。なんで、こんな質量を増したままなんですか、とか、伺うのは幾ら何でも野暮かしら。背後から覆い被せられる格好で、って獣の交尾を模した姿の私達ははしたなくて、気持ちよくて、視線が合わない分恥じらわずに済むけれど、その分寂しくて。私の背に落下する彼の雫さえも愛撫のひとつみたい。深く吐き出された吐息の熱さが皮膚を滑り、背筋を粟立て、次いで降りかかる小刻みな吐息が追撃する。抱き締めて貰えば熱を上げた皮膚同士が重なり、より擦れて蕩け出しそう。双丘を可愛がられれば切なくなって、唇に乗っかる物足りなさが殊更浮き彫りとなる。
全ての凹凸を埋めて欲しいと望むのは、果たして欲張り過ぎるのだろうか。せめてそれらを忘却させ、思考を更地と化してくれるほどの快楽で攫ってほしい。


2018/01/15
警視殿&2018初夢。

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