短編

おそらくあれが次の新世界だね


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地球の息遣いは相も変わらず穏やかなものだというのに、この星は本日を以て消え去る、なんて一般人からすれば酷い話。
ソースは古代文明の残した不確かな予言や、宇宙人が攻め込んでくるなんていうふわふわとしたものでは無くて。
――僕らが英雄に成り損ねたから。

ひらり、と視界の隅で揺れた灰色のスカートを、僕は一瞬雲かと思った。風の間に間に膝を晒したり隠したりを繰り返すスカートの上の、なだらかな胴体を見、視線はさらに上の方へ。細い首の上にちょこんと乗っている顔は、まさしくみょうじさんその人だ。

「メディアはどこもかしこも同じことしか言わないんじゃないかな」
「そうみたい。最期まで情報は守り抜くらしいよ」

絶え間なく更新され続けるネットニュースの記事をスクロール。同じようなタイトルの並ぶ画面を見つめているのも無意義なだけだと、スリープモードを選んだ。一体全体どれがこの星最後のニュース記事となるのだろう、星の残滓の中から異星人に発掘されるのだろう、と暇を持て余すしかない僕は不謹慎かつファンタジックな思考を転がす。

「ねぇ、渚」
「なあに、みょうじさん」
「私……、私ね?」

みょうじさんが内緒話をするかのような距離を作る。

「好き」

たった二つだけの音。告げられた、彼女が秘めていたもの。ささやかな一世一代に心臓を揺さぶられる。
「僕も」と嘘を吐いた。
ごめんね。の、たった四文字の決まりきった台詞を紡いで、彼女の恋心をいとも容易く粉砕してしまう気にはどうにもなれなかったのだ。今はそういうことは考えられないんだ。と、添えるはずだったありきたりな言葉も、等しく不発。

「……本当?」

微笑んで、優しさを作り上げて、こっくりをする。

零度の慈悲は連れて行くよ。持って行くよ。墓場まで。もう墓も立たないけれど。
つい先ほどまでは恥じらって視線を彷徨わせていたというのに、今では喜んで頬を染め、かと思えば遥か蒼穹に怯えて青褪める、とても忙しい女の子。大丈夫、手を繋いでいてあげる。ぬくもりを分け与えてあげる。少しは不安も和らぐでしょう。所詮は紛い物でしかないかもしれないけれど、刹那的にでも、安らぎに似たものは得られるでしょう。
隙間無く指を絡めて。呼吸のための隙間だって、殺してしまって。僕らが知り得る限りの術と、残されている猶予の中で互いの凹凸は埋め合うのだ。そうしていれば、ね。大丈夫、怖くない。一緒に、待っていよう。あやすように言い聞かせるのは、一体どちらに対してだろう。なんて、そんなのは野暮か。いいと思った。どこからがどちらなのか、どちらがどちらなのか。他人との境界も曖昧なくらいがちょうどいいと思った。
待つものとは何だっけ、と熱に浮かされた思考を廻す。嗚呼、無色の未来が訪れを、だ。


ぱちり、光が泣いた。星が嘶いた。おそらくあれが次の新世界だねと、隣の誰かが言っていた
気付かないでいよう、ぬくもりに溺れて。それが僕の目隠し代わりなのさ。


2017/10/13

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