短編

君はゆっくりと輪郭を失う氷のように 前編


■R18
■眼の前で恋人を拷問・強姦されてしまうバーボン
■飲尿、モブによる強姦/レイプ/モブレ/NTR/暴力/見方によりベルモット攻め……他



かち、という幽かな音が鼓膜を引っ掻いた後、眼前の人影の手元で小さな炎が燃え上がった。決してまばゆいとは言えない小さな灯りが、意識に覚醒を促し――二度のまばたきで正気を取り戻した僕は、自分が今の今まで意識を朦朧とさせていたことを知る。

「あら、お目覚めのようね、バーボン。気分はどうかしら」
「……最悪ですよ」

菫色の口紅を引いた女の唇は、言葉と同時に紫煙をくゆらせた。咥えていた煙草を指に掲げたベルモットは、ぞっとするほどの美貌の顔を僕に寄せるので――そこで彼女と僕の身長差が逆転していること、自分が今椅子に座らせられていることを知る――、煙草の不健康な香りがこちらの鼻まで届く。煙たい吐息を吸わされて反吐が出そうだ。
僕はその世界中のあまたの男を虜にしてきた名女優の翡翠の双眸を睨み返し、重たい舌で悪態をついた。
最悪、極まりない。なにしろ今の僕はこの恐ろしく座り心地の悪い椅子に縛り付けられている。背もたれの後ろで両手首を拘束され、左右の足は軽く開かれてそれぞれが椅子の脚に結ばれていた。姿勢を変えようとすればがたんと椅子の脚が汚れた床を打って音を立てる。
眼球をほとんど動かさずに周囲の様子を探ってみるが、窓のない閑散とした室内に自然光の迷い込む余地はなく、現在の時刻すらも探れない。コンクリートが打ちっぱなしの壁と床にはなんのヒントもない。せいぜいここが寂れた廃ビルの一室だということが察せられる程度か……。
最後の記憶は愛車の中で助手席のベルモットとビジネスの話をしていたこと。この女に頻繁に脚として使われている僕は、今日もまたくだらない私用で呼び出されていた。

――恐らくは車内で薬品か何かを嗅がされ、気絶している間にここまで運ばれてきた、と言ったところか……。しかし何が目的だ。

殺すのならば拳銃一丁で済む話。薬で意識のない相手に銃口を突きつけるなど容易い。死体の後始末をしてくれる手足ならば、彼女は多く持っているはず。
ベルモットの狙いが僕の命ではないことだけは確かだが――何しろ僕の消息が立たれればこの女の秘密がリークされる手はずになっているということは彼女も承知のはずであるし――、命を脅かされる危険がないという悪人にしては甘っちょろい前提が、逆に彼女の動向を謎めかせていた。

「……えぇ、そう、無事回収できたのね。ならすぐにこちらに来て頂戴。バーボンが意識を取り戻したわ。いつでも始められる……」

ベルモットの通話の相手は僕のように噛みつく危険のない例の“手足”だろうか。瞳と同じ色彩の美しいジェルネイルに彩られた指先が携帯端末の画面をトン、と叩いて話を終える。

「呼んだ仲間に僕を拷問にでもかけさせるつもりですか? 貴女の細腕では痛めつけるにも限度がありますもんね」
「あら、私があなたを殺すとは考えないわけ? 彼らを呼んだのは脳味噌ぶちまけたあなたの死体の痕跡を綺麗にお掃除させるためかも知れないじゃない?」
「貴女は僕を殺しませんよ……。以前お話しましたよね? 僕の消息が絶たれた場合、貴女の秘密が組織内にリークされる手筈になっている、と……。貴女がそれの対策を目論むことはあっても、態々そのために動くほどに危険視しているのなら、尚更下手に刺激するようなしないはず……。ベルモットがあれを脅威に感じてくれればくれるほどに僕の身の安全は保証されるわけです……。実際、貴女はこの“仕掛け”を恐れていますよね? こんな風に僕に拷問を行い、リークの対策に労力を割いていることが、何よりの証左なのですから。流石の貴女にもこの罠は効いたみたいですねぇ」
「女の内情を暴きすぎる男は嫌われるわよ。察しが良いのはいいことだけれど、うまく立ち回らないとね……。ねぇ、バーボン。さっきから随分口数が多いみたいだけれど、やはりさすがのあなたもこの状況に少しは焦っているのかしら」
「先程の言葉ですが、そっくりそのままそちらにお返しします。心の裡を推理されて嬉しい男はいない。ちなみに僕は元々おしゃべりな方ですよ。よくご存知のはずでは?」

欠伸をする猫のように気ままに煙を吐いたあと、「そうね、減らず口よね」とベルモットは瞼を閉じて肩を竦めた。さすがというべきか、絵になるほどに流麗である彼女の動作に合わせて、煙草の先端から天井に登る煙はくねる。彼女の一瞬を切り取り、作品として残したい画家や彫刻家なら星の数ほどもいるだろう。
蒼い血管が透くほど白いベルモットの指に摘まれた、通常のものよりも細くて長さのある煙草にすら、宝石を超える価値がつく。彼女が吸ったというただそれだけで。
組織に関与する前の僕なら、一介の男としてまず間違いなくこの美貌の映画スターに心奪われていただろう。とんだ女狐、それどころか魔女だと知らなければ、今も夢を見ていられたのやもしれない。

「どれ、我慢くらべといきましょうか……。殴るんですか? 身体の末端をその拳銃で撃つんですか? それとも水責め? 爪を一本ずつ剥がしていく? ……あぁ、貴女とバーボネラやマンハッタンを作るのだけはごめんですね」
「あら、奇遇ね。私もよ」

僕の軽口にベルモットは不敵に笑った。純白の貝殻の上に佇む女神の笑顔に、妖しい影を溶かしたような、冷たく美しい微笑だ。
彼女の好みはジンのような男だろう――それがあの冷徹な人間性に惹かれているという意味か、単に好ましい肉体をしているという意味かまでは図りあぐねるが。悪党の肉体関係に情が伴っているのかどうかにまで関心はない。使い勝手のいい情報としていつかその真実を確かめたいという気持ちはあったとしても。

「悪いけど、拷問を受けるのは貴方じゃないのよ、バァーボン」
「……というと?」
「なんて言ったかしら? ほら、あなたの飼い犬の……」

その瞬間、僕は初めて己の心臓を凍て付かせた。表情の揺れも瞳孔の伸縮も咄嗟に取り繕えたが、拘束にすら怯まなかった精神はただその存在を匂わされただけで動揺していた。
僕の演技も名女優の前ではさぞや拙い児戯だろう。騒ぐ心を隠すためになにごとか紡ごうとして、しかし「入っていいわよ」というベルモットの声に発声の機会を潰される。
ベルモットが部屋の外に向けて合図を送ると、乱暴に扉が開かれ、荒々しい靴音ともに2人の男が入り込んできた。……否、もうひとりいる。

「きゃあっ!!」

後ろ手に手錠をかけられた女が、ベルモットの手足であろう構成員の男たちによって床に転がされた。受け身は取ったものの手の自由がない分不十分だったらしく、痛々しい悲鳴が床に転がる。
容貌は華奢な女だが腐っても僕の部下だ、鍛えた体幹ですぐさま跳ね起きようとするが、それを男の一人に抑え込まれる。
なまえ、とその名を呼びたい衝動に駆られた。

「この子、コードネームもない末端の構成員のくせに、あなたはよく可愛がっているわよね……。せっかくだしその秘密も知りたいところだわ……――そんなに抱き心地がいいのかしら?」

ねぇ、バーボン? ベルモットの細い指が僕の顔の輪郭をなぞり、顎を掬った。

――……そういうことか。糞……ッ、卑怯な真似を……!

僕は彼女に迫る下衆な危機を閃光のように理解した。
翡翠色の瞳と見つめ合わせられたかと思えば、ふう、と紫煙を鼻先に吹きかけられる。吐息を孕んだ煙が器官を汚していく。
僕は奥歯が摩擦ですり減るほどに歯噛みをしながらベルモットを睨んだ。が、とうに彼女は僕から身を引きがしており、なまえを取り囲む男達に呼びかけていた。

「いいこと、殺しちゃ駄目よ? 生かさず殺さず助けを求めさせるの……。それと、歯を折るのも駄目……喋れなくなるのは面倒だから……。それ以外は好きにしてちょうだい」

見目だけはとくべつに美しい唇で命じられる残酷な指示。
埃の散る床を芋虫のように這い、逃げ出そうとしたなまえを男の一人が連れ戻す。くるぶしを掴むと、靴が脱げるのもお構いなしに荷物のように引き摺った。彼女がじたばたと藻掻けばスカートが捲れ、黒いストッキングから透ける腿と下着が覗く。

「何逃げてんだよ」

苛立った口調で吐き捨てた男が、彼女の髪を掴んでガンッ! と後頭部を床に叩きつける。悲鳴が上がるともう一度同じように叩きつけ、軽い脳震盪で抵抗できなくなった彼女にもう一人とともに群がった。
片足だけ踵の脱げたパンプスを履いたままの脚を強引に開かせ、ストッキングを引きちぎる。局部だけを曝け出すように穴が開くとまるで男を待つ痴女のようだが、なまえ自身は懸命に脚を閉じようとして男達を拒み続けた。

「や、やめ……っ! 来ないでっ、さわんないでっ! やめてくださ……!!」

抵抗すべくなまえが身を捩る。僕は解けない拘束を解こうと椅子の上で暴れる。僕と彼女の手錠をかけられた手元からは、がちゃがちゃという同じ金属音が鳴り響いていた。

「ベルモット……ッ! 今すぐやめさせてください! 彼女を揺さぶったところでそれは無意味だ。僕の性格は貴女もよく知っているでしょう? 一介の部下に大切な情報は共有しちゃあいない……その女はただの使い勝手のいい駒で、ていのいいセックス奴隷だ」
「お互い組織では秘密主義で通っているものね……別に彼女から情報を得ようなんて考えていないわ。口を割るのは貴方よ、バーボン……。よく見ておきなさい? あなたのお姫様がどんな風に壊れていくか……。まばたきしたら許さないわよ」

狂犬のように息を荒げる僕の傍らで、千の顔を持つ魔女は名作の舞台の観劇でもするかのような優雅な動作で煙草を蒸していた。
やはりこの女の狙いは、彼女を僕の眼前で痛めつけて犯すことで耐えかねた僕に口を割らせることか。

「待って! ねぇ! やだ、やだっ! い、いやぁぁっ!」

男たちは叫ぶなまえの髪を引っ張って彼女を床に引きずり、一人が彼女の背後に回って抱え込んだ。手は手錠を嵌められているから、膝裏を抱えて大きく開脚させるだけでいい。スカートはずりあがって腰で丸まっており、雄を受け入れさせるために付け根だけ破かれたストッキングが丸見えになる。
男が後ろから前に回した手によってブラウスが左右に引き裂かれて釦が飛び散り、開け放たれた前から淡いブルーグレーの下着と控えめながら綺麗な胸の双丘が覗く。
僕が買ってあげた靴。僕がかわいいと言って以来よく身につけるようになった下着。僕が似合うと言った髪型。思い出はもみくちゃ。
砂糖菓子を愛でるように常に丁寧に触れて壊さないように抱いてきたのに、全てが目の前で壊されようとしている。

「今すぐ彼女から離れてください! やめろと言っているんです、聞こえませんか!?」
「ひっ……! いやぁっ!」

正面から覆い被さった男がなまえの顎を持ち上げ、唇を舐める。彼女は悲鳴を上げていた口を閉じて必死に拒むが、男はそれを許さない。頬を叩かれ、結局涙を流しながら唇を開いた。男が汚らしい舌をねじ込み、口内を蹂躙する。いびつなディープキスは見ているだけで吐き気がした。
男たちの手が、舌が、彼女の体を這い回る。ずらされた下着から飛び出た胸は乱暴に揉みしだかれ、乳首を強くつままれて、爪を立てられていた。
あんなものはセックスじゃない。交尾ですら無い。ただ尊厳を踏み躙るための手段で、性に形を変えた暴行だ。
これらが全て僕のためのもので、僕のために彼女が巻き添えになっているのだと思うとベルモットと男どもに対しても、己に対しても腹わたが煮えくり返りそうだった。

「ほら、あなたの飼い主が見ているわ。助けを求めなくていいのかしら」

ベルモットがピンヒールを鳴らしてなまえの元に寄り、首を傾げる。

「……っ、助け? 必要ありません! 私はそんなに弱くないし落ちぶれてもいません」
「嘘つき。泣きそうになっているのは誰かしら。口は強気のようだけれど躰は追いついていないみたいよ」

エメラルドグリーンのグラデーションに塗られたベルモットの爪の先端が、つぅ、となまえの首筋をなぞった。彼女は、自分を暴く男達に恐怖と嫌悪を浮かべた瞳に、さらに怒りを重ね、鋭い視線でベルモットに啖呵を切ったが、拘束されたうえに今まさに肌を好き放題にされている状態では虚勢としても成立しない。

「彼女のそこ、広げて見せてあげなさい。これから犯されちゃうところをね……」

ベルモットの命を受けて、男達は彼女を抱え直して僕の方を向かせると、ごつごつとした太い指で下着のクロッチを真横にずらす。脚を閉じようとするなまえだが、背後のもう一人に両足を大きく広げさせられており、腿を震わせることしかできない。
手前の男が股に引かれた縦の筋をまるで見世物のように指で左右に広げた――。淫靡な窪みが少しの雫を零しながら口を開かされる。

「い、や……っ! 見ないで、バーボン……見ないでください……」

僕は椅子に縛り付けられた四肢をがちゃがちゃと揺らす。組織内では自分は武闘派としては通っていないことも忘れて、ベルモットに殴りかかりたい衝動に駆られるが、手錠は外れず皮膚が金属に擦れて切れるだけ。
翡翠の目と爪の魔女はその様子を鼻で笑った。

「く、そ……」

僕は項垂れて自分のつま先を睨んだ。せめて目を逸らすことが彼女のためだと思った。
刹那、頬に衝撃が走り、口に鉄の味が溢れかえる。ベルモットが僕の頬を叩いたのだ。

「目を逸らしちゃダァメ……。ちゃあんと見ていないとね。愛しい愛しいあなたの恋人がめちゃくちゃに犯されているところ」

ベルモットは僕の顎を掴み、無理やり僕の眼になまえを映させる。

「いいこと、バーボン。あなたは私の秘密を知っている危険因子――」

その横顔は一人の女が男達に弄ばれる様をまるで娯楽や映画や酒の肴のように眺めていた。菫のルージュの彩る口元は子猫の戯れでも愛でるように口角を持ち上げており、銀幕女優の笑みに冷酷さと到底理解できない非人道性を垣間見る。やはりこの女もまた、僕らとは相容れない悪党なのだ。

「さっさと私の秘密の在処を吐かないと、あの子、壊されちゃうわよ」

それは僕の心を揺さぶるに足る一言だった。

「ほら、ケツを出せ」
「うあっ」

なまえの背後を取っていた男が立ち上がり、彼女の後頭部を蹴りつけて床に這いつくばらせた。後ろ手に拘束を受けた彼女は手を使えないため、危うく顔から床に突っ込むところであったのを、膝で我が身を支えて事なきを得る。獣のように臀部を突き出して膝立ちになると、男が乱暴に腰を掴んだ。
まさか――。焦燥と確信が番って僕の脳を駆け抜ける。同じように男の次の暴挙を先読みしたなまえは、背後から自分に迫るその男を振り返り、瞳を恐怖で見開いた。やめて、と空に消え入る煙のような細い声で彼女が懇願した刹那、そそり立つ性器を露出した男がぴとりとその怒張を充てがう。

――やめろ。

「いやぁっ!! やだっ!! やっ……やめてっ、やめ……っ! それだけはやめて! ――っ、痛っ……!! 痛い! うあ……、ああぁぁ――っ!!」

慣らされてもいない、乾いた秘部にそれが突き刺された。
彼女は顔を真っ赤にして必死に首を横に振る。ずり、ずり、と膝で床を歩んで、背後から自らに侵入する屹立から逃れようとするが、背中でまとめられた手をちょうどいい取っ手とばかりに男が掴み、なまえを元の位置に引きずり戻した。後ろから押し込む勢いと、引き戻される勢いにより、衝突のように男の汚らしいものがなまえの中にぐっぽりと収まった。

「やめろ……、やめろやめろやめろ……!! ベルモット、いますぐやめさせてください!!」
「ぐぅ……あぁっ、いやぁ!! 痛ぁっ! いたい、ですっ、抜い、てぇ……! おねが、おねがっ……お願いっ、抜いてっ! うあぁっ!!」

恥骨と尾骨がぶつかり合い、それらを包んでいる皮肉も弾けるような音を立てる。雄と雌の肉のぶつかる音と身悶える彼女の痛ましい悲鳴で部屋は満たされていたが、不自然なほどに水音だけがおとなしかった。彼女の其処が誰かを受け入れられるほど蜜を流していないということだろう。男の先走りだけが数少ない潤滑油で、あんなにも激しく挿入や律動をされれば激痛のはずだ。

「やだぁっ、抜いてっ……ぬいてくださ……、おねがいします……っ! おねがっ、します……! 妊娠っ、したくない!!」

男が腰を引いて、またすぐに押し込む。すると引き抜かれた際に肉と肉の間に生まれた僅かな隙間から、赤い雫が滲んだ。僕はぞっとした。このままだと本当に壊される。
やめて、やめて、痛い、抜いて、となまえが必死に懇願するが、男は聞く耳を持たず、容赦なく怒張した性器を叩きつける。

「ひっ……痛いっ! いたぃっ! やだあっ、やめてくださいっ! はなし、離し……!」

擦り切れた中にもお構いなしに男はピストンを繰り返し続けるので、真新しい傷は抉られたのだろう、流れ続ける鮮血が腿を伝い、ぱたぱたと床に零れ落ちた。

「う、あ、ぁ……う、そ――……」

なまえが目を見開いて涙の数を増やした訳を最初は単なる痛み故だと思っていたが……少しすると腿に筋を引く血の中に白いものが混じり始め、血の気が引いた。男が性器を引き抜くとその先端からはまだ白濁が滴っており、確信する。
嘘だろう、子種を胎にぶちまけたのか。

――糞、糞、糞……っ!

暴かれた股から血と精を流しながら、なまえは芋虫のように床を這って逃げ出そうとする。どうか逃げてくれ、と願いその動向を見守るものの、彼女はあっけなく捕まってしまった。男の足が彼女の脾腹に沈み、転倒して転がった先の床でも腹を踏みつけられる。ごぽりと胃の中のものを吐き出した彼女を鼻で笑い、喉に詰まりかけた吐瀉物を吐き出している彼女の頭に靴底を擦り付ける。

「僕を殴ればいいだろう……ッ!? なぁ! なぜ彼女を巻き込むんですか!」
「いぁ、やぇ……って、くらさ……っ」

泣きじゃくり許しを請う彼女の顔に唾棄し、またあの獣の交尾の体勢にさせる。そして男は自身を扱いて立たせると、再び彼女の股に汚いものを押し付けた。

「うあぁぁ……」

肉の音、悲鳴。それに、足りなかった水音が加わる。蜜を零す代わりに血を流したせいで、そして精を出されたせいで、滑りが良くなったのだ。
落ちる汗と涙と精液が床の血溜まりに重なり、色を薄めた。
背中を丸めたり、逆に反らせたりしながらも、それまでは膝で自重を支えられていたなまえが、ついに上肢を床の上に崩した。折りかけた膝は、腰を掴まれて高く掲げられたことで膝立ちの形を保っている。頬と胸を汚い床に擦り付け、泣きながら下半身は男の意のまま。脳味噌が頭骨に擦れるほどに揺さぶられ、息も絶え絶えに泣いている。

「ほら、バーボンに何か言ってあげることがあるんじゃない? 優しいバーボンのことだもの、かわいい貴女のお願いなら聞いてくれるんじゃないかしら」
「あっ……あぁっ、んぐぅ……。バ、ボン……ごめんなさ……っ、ひっ! あうっ! あっ……、やっ、やだあっ、やだ……! みないで……っ、みないれっ、くらさっ、いっ! いぁっ!」
「強情ね。……続けなさい」

ベルモットは表情一つ揺れ動かさずに、男達に冷たく言い渡す。
なまえに挿入しているのとは別のもう一人が床に伏した彼女の頬を蹴りつけた。

「いぁ……っ!」
「蹴られて締めやがった、この淫乱」

挿入している方の男がにやりと笑う。
蹴った方の男はなまえの髪を引っ張り上げて顔を起こさせ、その眼前に自らのペニスを晒した。

「しゃぶれ」

拒否権など無い。絶望に犯された双眸で僕を一瞥したなまえだったが、震えながらも舌を出して男のものに口を寄せた。

「バー……ボ……、ごめんなさい……」

薄汚い欲を体現した芯に舌を這わせた瞬間、頭を両手で引き寄せられ、薄く開かれていた唇から口腔めがけてそれを突き立てられた。

「んぐ……っ!?」

彼女は喉の奥にまで突っ込まれてえづきそうになりつつも、必死に耐え、自身を犯す二人の男に従順に躰を差し出していた。悔しさにか苦しさにか涙を流しながら口内をかき乱され、喉を塞がれる。男は彼女を生きた人間ではなく快楽に浸るための媒体として扱い、呼吸への配慮もなく乱暴に喉を甚振った。
性器を陣取っている方の男も絶え間なく腰を打ち付けており、痛みと苦しみになまえは翻弄され続けた。
出る、という宣言の後、身震いをした男が口腔に射精する。勢いよく注がれる性の波に喉をぶたれ、なまえが息を止めたのが見て取れた。

「こぼしちゃダァメ……。全部飲むのよ、パピーちゃん」

醜貌の芯を口から引き抜かれると、ようやく自由になった口で激しく咳き込みながら倒れ込む。
ベルモットは零すなと言うが、しかしそれは難儀だ。口を塞ぐための手すら使えないのに、咳によって吐き出してしまうものを止められるわけもない。案の定出された精を尽く床に吐いてしまった彼女に、「あらあら、悪い子」とベルモットが呆れ返る。

「這いつくばって、それをすべて舐めなさい。ちゃんと綺麗にするのよ。あなたが汚したのだから……」

なまえは抗議もしなくなっていた。無抵抗に、ベルモットの理不尽な命令を遂行する。
後ろからペニスで刺されたまま、こうべを垂れて舌を鈍色のコンクリートに這わせていく……。
何故彼女がこんなにも惨めな真似を――。
何故僕はここにいる? ここでただ見ているだけの不条理を受け入れている?
なまえは埃をいだいた白濁を舐め取って、こくり、と喉に押し込むのだが、それもままならない。背後の男の阿漕な律動が水を差すからだ。

「舐め、ました……うぁっ」

背後からの責めに耐えながらなまえが言うと、ベルモットは先程彼女に舐めさせていた男に目配せをした。
胎を犯す男が彼女の手錠をかけられた手首を掴んで引き起こし、膝立ちにさせると、もうひとりが正面から彼女の胸元にペニスを押し付ける。胸の膨らみを乱暴な手つきで中央へと寄せ、自身のペニスを挟む。そして男は先端からあふれる先走りを白い肌に塗りたくりながら、上下に腰を振り始めた。男のものが、乱雑に掴まれて形を変えられた乳房の間を行き来する。後ろの男が胎を抉るように中を突けばなまえは身をくねらせるので、男が禄に動かずとも胸は勝手に男に奉仕し、悦ばせた。
なまえは目を閉じ、その光景を必死に眼界から追い出そうとしている。

「うぁ、あっ、あぁ……っ! やだっ、やだぁっ! ひっ……いやぁっ……!! 離して……っ! いやあぁっ!」

彼女の胸の狭間で醜悪なそれがどくんと一際大きく脈動したのち、男の身体がみっともなく痙攣する。男はなまえの頭を鷲掴み、性器の先端にその鼻先を持ってきた。白濁とした精で彼女の愛らしい顔が汚されていく。
後ろの男もまたほぼ同時に登り詰めたらしく、胎内に広がる子種の熱さに一瞬目を見開いたなまえが目尻から涙を伝わせた。それと同調するようにペニスの抜かれた其処からも白濁が流れ出る。
用済みの人形を捨てるように男たちがなまえを手放すと、彼女はくったりと床にくたばった。

「なまえ……っ。しっかりしてください」

僕は蝋人形のように転がる彼女に呼びかけた。できることといえばせいぜい彼女の名を呼ぶことくらいの自分が、この場で一番憎い。
挿入されて咥えさせられて胸で挟まれてしごかれて。中に出されて飲まされて顔にかけられて。髪も服も乱れ、総身を他者の精液で濡らした、変わり果てた姿。
彼女の皮膚に居座る白濁がひどく忌々しい。
下品な笑い声をあげる男達によって、ただ国と正義のために奔走しているだけの罪のない部下が乱暴に犯された。
頭がおかしくなりそうだ。見ているだけでも狂いそうなのに、泣き叫んでもやめてもらえない彼女の心は今どうなっているのか。

「なまえ……ッ!」

何度目かの呼びかけで、ぴく、となまえが指を動かした。焦点の合わない眼が僕に向けられる。
いっそのこと意識を失っていたほうが楽だっただろう。しかし脈も取れない以上、安否の確認は口頭で行うしかなかった。

「酷い飼い主ね……。目の前で飼い犬が犯されているのに助けてもくれないなんて……。この男は薄情ね。大切な恋人がどうなってもいいみたい」

ベルモットがまるで彼女に同情するような、砂糖をまぶした語調で告げる。彼女を犯せと指示したのは他でもないこの女であろうに。

「なまえ、といったわね。貴女からバーボンにおねだりしてみてくれないかしら……もし彼が聞いてくれたら、特別に貴女のことは助けてあげる。もうこれ以上酷いことはされたくないでしょう? たった一言おねだりするだけでいいのよ」

ね? いい取引だと思わない? ベルモットは弧を描く唇で囁く。

「言っちゃ、駄目……駄目です、バーボン……。私は大丈夫ですから。お願いだから優先順位を守って……」
「……っ」
「あら、躾が行き届いているのね。それにとっても健気。妬けるわ」

なまえはまだ輝くような高潔な信念を失ってはいなかった。
――リークシステムはいわばセーフティネットだ。僕が組織内で殺されないための砦なのだ。
命の価値は対等ではない。立場のある人間には責任が付きまとう。組織は勿論のこと、公安部でもさして影響力を持たない彼女ひとりが辱められ殺されても、二つの組織は明日もあたりまえに回り続けるだろう。鮫の歯のように彼女の代わりをひょいとはやして。
しかし代替品に恵まれた駒の彼女に対し、僕が死ねば組織壊滅という全世界の悲願は一歩遠のき、僕の死によって公安には多少の動揺が広がる。己の死骸から不利益を産まないためにも僕は生き延びなければならないのだ、この女を切り捨てでも。

――できるわけ、無いじゃないですか……っ。

できるわけがない。それでも、彼女を救うことも選べない。
世界を牛耳る組織に対して、千の顔を持つ魔女への牽制という僕の最大の切り札に対して、なまえという駒の命は軽すぎる。

「だい、じょうぶ、ですから……私……平気ですから……。あなたはあなたのことを考えてください……」

彼女はぼろぼろと大粒の涙を落としながら、それでもなお健気に僕に微笑みかけてくる。下手くそに口角を上げて。その表情があまりにも悲壮で、僕は塗り替えられ忘れそうになる怒りをこの躰に留めるために、きつく拳を握りしめた。

「せっかくチャンスを上げたのに……ふいにしちゃうんだから。馬鹿な子。続けるしか無いようね」

ベルモットが手品師のように指を鳴らすと、それを合図に地獄がまた幕を上げる。
男のうちの一人がなまえの体に纏わりついていた衣類や下着をナイフで切り刻み、彼女を丸裸にした。布の残骸が床にはらはらと舞い落ちていく。最後まで残っていた片足のパンプスが、脱がされて宙を舞う。
髪を引っ張られて僕の眼前に立たされたなまえは、後ろから男にねじこまれた。後ろで手錠でひとまとめにされた腕を手綱のように掴んで、男は腰を打ち付ける。彼女の泣き顔も、前屈みで激しく揺れる胸も、余すところなく僕に見せつけるようにして犯していく。

「やぁだぁ……っ! やっ! ふぁぁ……っ!」

苦痛に顔を歪める彼女の背後で、盛の付いた豚みたいに腰をふる男が、彼女とは対称的なまでに恍惚とした表情を浮かべていた。
生まれたての子鹿さながらに膝が笑っている彼女が受け止めるにはその律動はあまりにも荒々しい。勢いよく突き上げられる都度、がくん、と彼女は崩れ落ちそうになるのだが、手や髪を引かれて姿勢を男の好きなように正される。
ばちん、と尻の肉が赤らむほどに強く、男がなまえの尻を叩いた。

「痛っ!」

びく、と体を大きく跳ねさせたなまえの背後で男が眉を顰めたのが見えた。なまえは痛みへの反射で腹に力を込めたらしく、それが男に射精を促したのだ。

「あ――、なか、やだぁ……っ。出さないでぇ……」

彼女は抵抗するように首を振ったが、聞く耳を持たない男は醜い精子を子宮になすりつける。絶望しきった彼女が目と鼻の先でへたりこんでいるというのに、手を伸ばすこともできない。
しなびた性器を引き抜かれると同時に、なまえはその場に膝を折った。
そして、休む間もなく次の男のペニスが宛てがわれる……。

「あ、あぁ……も、やだあ……――あぐっ!?」

二人目の男は、がつん、と顔を床に叩きつけるような勢いで彼女を床に這わせて、腰を持ち上げた。しどけなく垂れる精液と愛液と血液の混じったものを、ぐぼ、と泡立てながらまた彼女に押し入る。

「ベルモット、いつまでこんなおふざけを続ける気です? 殺しては駄目だと言ったのは貴女ですよね。こんな乱暴を続けていたら本当に……!」
「セックスじゃ人は死なないわ」
「死ぬでしょう……! こんなのはただの暴力なんですから!」

立ったまま犯されていたなまえだが、今度は僕の自由にならない膝のそばに交尾のような体勢で胎を貪られていた。

「バーボン、これはあなたの選択の結果よ。あなたがいつまで経っても口を割らないせいで、この子は今こんな酷い目に遭っているの……」
「違ぁっ、あぁぁっ……ちがい、ます! バーボンのせいじゃ、ひっ、う……ありません……っ!」

なまえはぼろぼろと涙を流しながら僕を庇う。
――君を確実に破滅させることが出来るならば、公共の利益の為に僕は喜んで死を受け入れよう。
あの聡明な少年が敬愛する、英国の名探偵の言葉だ。
僕たち公安は大のために小を切り捨てる。国家のために末端の国民を犠牲にする。シャーロック・ホームズが命を賭して実行した自己犠牲を、時に他者に押し付けるからには、無論僕らも自分がいつか切り捨てられる小の立場になることなど覚悟の上。彼女とて例外ではない。
大義のために生きる僕らは正義のために死ぬ。正義のために彼女を殺す。
みょうじなまえただひとりのためだけに情報は売れない。
国家の歯車としての自分と、痛む良心を持つ一人の人間としての自分がせめぎ合う。

「嗚呼、見て……あなたのご主人様、自分の恋人が他人に犯されるのを見て、ここをこんなにしちゃっているわ」

認めたくなかった、スラックスの股間の布を押し上げる僕自身の屹立を、ベルモットの手が撫で付ける。
僕が彼女が他人に辱められる様を見てそこに血潮を集めていることを彼女に知られた。不可抗力の生理現象とはいえ、羞恥心と後ろめたさから僕は彼女から視線を反らす。

「慰めてあげたら?」
「バーボン……」
「聞く必要なんてありません」

食い違うベルモットと僕の言葉になまえは困り果てる。

「何を勝手にバーボンの命令を聞いているの? 今あなたのご主人様のリードを握っているのは私よ……わかるでしょう? 言うこと聞かないとあなたたちのどちらかの足を折るわ」
「や、やりますっ。やりますからぁっ」

ベルモットの脅しに竦んだなまえがいそいそと僕の脚の狭間に顔を寄せた。足を肩幅程度に開かされて踝を椅子の脚に固定されているせいで、閉じて拒むこともできない。
背後から男に突き上げられ、びくびくと打ち震えながら、なまえは僕の張り詰めたそこにキスをした。顔に付着していた涎や精液が僕の服に移る。

「ぁ……、私、汚くて……ごめんなさい……っ。ごめっ、なさ……」
「違う、君は悪くない……。貴女のせいじゃないんです……巻き込んですみません」

いつものように髪や頬を撫でてやりたい。何度も引っ張られた髪はぐしゃぐしゃに乱れ、男達の体液で節々が濡れている。
しゃくりあげながら服の下で膨れているものを布越しに唇で食んで、舐めて。刺激と云うには些か物足りないものだが、罪悪感が知覚を敏感にしていた。

「ちゃんと直に触れてあげたら?」
「で、でも」
「手錠は外さないわ。それ以外でも、できるでしょう?」
「しなくていいです。なまえ、やめてください……こんなこと……」
「貴方、自分がこの子に命令できる立場にあると思って? バーボン」

僕を人質に取られた彼女はベルモットの命令を聞き入れた。脚だろうと腕だろうと何本でも折らせてやるのに、彼女はそれを恐れる。
彼女は僕の膝の上に上肢だけを軽く乗り上げると、ベルトのバックルに歯を立てて舌を絡め、なんとか外そうとする。精に濡れた胸が腿に押し付けられ、潰れていた。彼女の柔らかさと体重を受けてまた下着の中が窮屈になる。こんなときでさえ身体の中心に集った血が騒ぐのだから情けない。
なまえと躰を繋げている男はこの期に及んで少しもピストンを緩めないため、律動と刺激で彼女はうまくベルトを外すことができず、四苦八苦していた。

「……うっ、んんっ……うぅ、む……ぁっ」

股間のそばでもぞもぞと動かれながら喘がれると嫌でも口淫を意識させられてまた怒張が増す。そして自己嫌悪を復唱する。
小さな前歯と金属がぶつかり合う音が鳴り、ややあって、しゅる、という皮の擦れる音が響いた。かと思うと腰の締め付けが少し和らぐ。
次いで、ズボンのファスナーを探り当てると、それを軽く噛んでじりじりと下げた。
いつもは舐めさせている間は髪を撫でて、終われば頬を撫でて、キスもした。僕のものはまずいな、なんて思いながら、結局彼女の舌を吸うのはやめられなかった。
咥えさせるにしても顎を外させるのが怖くて浅くしか口には含ませない。奥に先端を突っ込んで抉るような真似などもってのほか。そもそも直に咥えさせたことすらない。口でするにもコンドームをつけていた。

――なのに、今、どんな状況だ……?

なまえは見知らぬ男に犯されながら必死に僕の性器を取り出そうとしている。
僕はなまえへのレイプに加担させられようとしている。
下ろしきったファスナーの隙間を口で広げて、下着からペニスを取り出された。勢いを伴ってまろびでたそれは生き物のように弾みながら、ぺちん、と彼女の頬を打つので、涙に濡れた瞳が怯む。
太く猛々しい、遠吠えでもしそうな芯……。なまえは唇の隙間から小さく突き出した舌で、卑しく聳え立つ欲の象徴を舐め上げた。

「ちゃんと咥えるの。もっと奥まで……喉を使うのよ。あの男にしたみたいに」
「ぅっ……ふぅ……っ、れもっ、噛んじゃ、ぃます……っ」
「この探り屋も飼い犬に手を噛まれることくらい承知してるわ。それともなに? 自分を犯した見知らぬ男のものが咥えられて、恋人のものが咥えられないなんて、そんなこと言わないわよね?」

逆らえないなまえは膝を立てて、僕のペニスに対して自分の口腔が垂直になるように真上から口に含んだ。
なぜ僕が彼女を犯さなければならない?
彼女の方から望んできたならまだしも。否、それだって、僕は許さなかっただろうけれど。
なまえが唇の端が避けるほど口を開け、限界まで僕を招いた――こつん、と最奥に当たる。それ以上は入らないが、器官としてはまだ続いている……それがどうしようもなく女性器と子宮に酷似していた。
彼女が手本にしているのはきっと先程自らが体験した暴力だ。あの男に喉を犯された折を再現するように僕のペニスを喉で扱いている。
意志とは裏腹にせりあがってくる性感が、嫌だ。
一から百まで彼女に教えるのは僕だと思っていた。彼女を好きに作り変えてしまうにしてもゆっくりと、大切に、人形のパーツを取り替えるように丁寧に行っていくはずだったのに、どうして。
刹那、男の律動に合わせて、僕のそれに彼女の歯が立てられた。

「……うッ!」
「あぁぁっ……ごえんなさ、あっ……! 大丈夫で、すか、ぁっ……う、ぅあっ」
「っ、ぼくは、だいじょうぶ、ですから……」

快楽に入り混じってそれを突き刺す痛みに声を上げると、仕事をしくじったときのように自責の涙を眼に湛えたなまえが口を離す。それにベルモットはいい顔をしなかった。

「誰が離していいなんて言ったかしら」

綺麗な翡翠色の爪を突き立てる勢いでベルモットはなまえの頭を鷲掴みにし、呼吸のための隙間を気遣うこと無くその口腔に僕のものを押し込んだ。

「んぐっ! うぅっ、ふぅ……、ううぅ〜〜……っ!!」
「……っぐ!?」

先程は少しずつ深められたフェラチオが、一瞬で奥に到達し、亀頭が行き止まりを叩いたので、ぞっとする。彼女の表情からえづきそうになっていることが察せられたが、僕のものが栓になっていて咳もできない。さらには息も止められて軽いパニックに陥っている。
もうやめてくれ、と心から願うのに、なまえが苦しみ藻掻けば藻掻くほどにペニスが刺激されて何も考えられなくなった。快感を否定したいのに脳が痺れて狂いそうになる。お前は感じているのだと真実だけが突きつけられる。
限界が迫る。もう全部忘れたい。ひくひく伸縮する喉が僕を高める。星が弾けて、頭が真っ白になった。

「――っ、ぁ、……はっ、は、ぁ、ふ、あ……」
「糞……出た……っ。すみません、苦しかったでしょう……」

離されたくちびるからはもったりと濃い白濁が滴っていた。膣に近い快楽をくれた口腔から開放された自身もまた、先端から同じ色の液を垂らしている。それは紛れもない僕が絶頂した証だった。避けがたい生理的な衝動に屈したのだ。

「なまえ……」

拭ってやれない汚れをせめて視線で僕は辿る。

「やああぁぁっ!? おねが、おねが……っ、お願い、やめっ、や……やめてぇっ、やあぁっ! う、あぁっ! 痛いの、いた、い……っ!」

自由になった口から決壊したように悲鳴が溢れ続けていた。彼女の背後を取る男が律動を激しいものへと変えていく。ひたすら交尾に没入する男は、がつ、がつ、と彼女の四肢がばらばらになるほど腰を叩きつける。
男の精子を子宮に浴びせられても、彼女はもう特別泣くことはしなかった。代わりにずっと悲痛な涙を流し続け、虚ろな瞳は絶望の沼から上がってくることはない。地獄との共生を迫られていた。

「バーボンの上に乗りなさい」
「ちょっと、」
「なまえ、乗るのよ」

口を挟んだ僕を黙らせるようにベルモットはもう一度強く命じる。はい、と覇気のない声で答えると、彼女は弄ばれた肉体に鞭を打ち、僕と向かい合う形で膝に乗り上げてきた。僕の両腿を跨ぐと、彼女は入れられていた名残でまだくぱりと広がっている其処を見せつけるかのように、脚を大胆に開くことになる。両手は後ろで束ねられたままで、捕まることもできないから、ずり落ちないように僕の身に胸を寄せる姿はまるで男に媚びる娼婦だ。
対面座位で、なまえは僕のものに腰を下していく。

「ちゃあんと自分で入れるのよ。奥までね」
「わかり、ました……」
「聞く必要はありませんよ。そんなことしなくていい。……っ、やめてください、なまえ……!」

彼女の隠れた裂け目、そのうねる肉が心地よく僕を包んだ。男に散々蹂躙されたそこは最悪なことにそのお陰もあってきつさはなく、僕を追い返さなかった。
包まれながら感じるぬめりは彼女の愛液と、血液と、男の精液の混ざったもの。痛かっただろう、怖かっただろう。今も、きっと痛いだろう。
彼女の中に隠れていく自身を呆然と見つめる。

「痛い、ですよねっ。すみません……せめてゆっくり、してください……焦らないで……貴女のペースでいいですから」
「は、はい」

なまえは僕の肩口に額を預け、震えながら少しずつ挿入を深めていった。胎内の傷口を抉らないようゆっくりとした速度でペニスを差し込む彼女だが、正直焦れったい。このまま突き上げて根本まで収めてしまえたらどれだけいいだろう。

「そんなんじゃバーボンだって気持ち良くなれないわ」

ベルモットが言うと、傍観を決め込んでいた男が動く。僕の膝の上で息を荒げる彼女の腰を背後から掴むと、勢いよく下ろさせた。ごちゅん、と亀頭が子宮を貫き、恥骨と恥骨がぴとりとぶつかる――。

「か、は――……あ、ああぁぁっ!!」
「〜〜っ、う……っ」

目の前で火花が散るような衝撃に、思わず僕の喉の奥からも声が漏れ出る。ペニスを全て受け入れさせられた彼女は、僕の膝を跨いで小刻みに痙攣していた。衝撃と喩える他ない強すぎる刺激を快楽に置き換えられず、苦しみ喘いでいる。
しかしどれだけ不本意でも快楽は快楽。ひといきに根本まで咥えられ、締め上げられてしまえば、身を委ねたくなるくらいにきもちがいい。

「どう? ご自慢のかわいい飼い犬の中は。気持ちがいいでしょう。貴方以外の男も使ったのよ」

僕たちが交わっている様を、ベルモットは満足げに見つめている。……否定できなかった。
なまえの腰を掴んでいた男が今度は彼女の脇に腕を差し込み、その躰を抱えあげる――ペニスが先端を中に残してそのほとんどが引き抜かれたところで、彼女の腰を下ろして奥と亀頭を衝突させた。

「うぅぅ……やぁぁっ……んあ、あぁっ」

男は彼女の躰の上げ下げを繰り返し、その意志に反したピストンを強い続けた。しがみつくための手も奪われているせいで、ぐらぐらと不安定だ。
上下に弾む胸が左右ばらばらに揺れ動いている。白い腹に内出血の青い痣が浮き始めていた。
彼女は痙攣のやまない躰で僕を締め続けた。膣は勝手に収縮を繰り返してこちらに射精を媚びる。男の動きに翻弄され、前後左右に揺すられるなまえの腰がペニスをなぶる。
顔を涙と唾液と汗に濡れてぐしゃぐしゃにし、こんなにも苦しんでいる彼女を前にしても、僕は快感に逆らえなかった。
とぷ……、と悦楽の証左たる白濁が迸る。

「ぁっ――……」

子宮めがけて飛び散るそれを膣に感じてか、なまえが小さな悲鳴を零した。


後編へ続く

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