短編

砂糖に触るとわからなくなる 後編


■R18
■夢的ハロ嫁後日談・後編
■吸血鬼×婦警コスプレえっち🦇👮



傷が治癒するまで禁欲生活を迫られたのかといえばそうではない。
帰宅できた日には彼女の介助及び監督のもと一緒に風呂に入って、洗いっこと称した戯れに興じたり、すぐに躰を洗浄できるのをいいことにペニスを舐めてもらったり、欲は殺さずに開放して完治を待った。
そもそもが帰宅できる日などまばらで、まともな時間に玄関を開けられる日など滅多にない職故に、浴室での情事もそれほど回数は重ねていない。

最低限度のコミュニケーションすらおざなりになってしまう生活だからこそ、そんな恵まれた日には埋め合わせるように躰を重ねたいのに、怪我のせいでそれすらままならないことが不服だった。
何しろ彼女は触らせてはくれても、傷に触れるのが怖いと言って僕に触れるのを謹んでしまう。抱き返してくれない相手への一方的な抱擁は存外虚しい。
握らせるのも舐めさせるのも咥えさせるのも興奮しこそはすれ、所詮は性的な娯楽か、マンネリ化しがちな前戯へのスパイスの域だろう。

「早く君の此処に入れたいな……。こんなに濡れて僕を待ってるのに」

ぴちゃ、ぴちゃ……とシャワーとは異なる、慎み深い水音の反響する浴室。バスチェアに腰を下した僕の膝の間で、なまえは四つん這いになって僕のペニスに舌を這わせている。
此処、と指し示すように――後ろに突き出されている臀部から手を差し入れ、恥丘を割って秘部に指を差し入れた。蜜口を人差し指と中指で拡げれば奥からとろりと粘る愛液が溢れてくる。
久方ぶりに彼女の胎内にねじ込んだなら、きっとそこは柔らかく僕の昂りを受け入れ、熱く包み込んで締め付けながら絡みつくに違いない。想像しただけで膨張する下半身を戒めるべく、僕は唇を強く噛みしめ、小さな舌と口で愛でてくれている恋人の髪を撫でる。

「……っ、もうすこしで包帯取れるんでしょ?」
「まぁね。短いようで長かったな……。仕事してるとあっという間だけど、君としてる間はああまだ何日しか経ってないのかって」

膝の間から僕を仰ぐなまえ。日常の延長線上にあるような、平素と変わらない語調だが、長らく指と舌でしか愛せていない敏感なところを擦られ、その呼気は僅かに跳ねている。
それに、その手に握り込んでいるのは、その頬に寄せているのは、僕の凶悪な肉の怒張である。愛くるしい顔には不相応な猟奇的な性器。その対比は、僕と彼女の肌の色の差異以上にえげつなくて、アンバランスで、そそられる。

「僕のを此処に突っ込んで、ぐちゃぐちゃにかき回して……思い切り中を突きたい……。なまえも僕の、一番奥まで欲しいだろ? 子宮が降りるまで気持ちよくしてあげて、ポルチオをいじめるみたいにぎゅうぎゅうに潰してやろうな……。ふふ、想像した?」
「んっ……うぅ……!」
「中、きゅんきゅん締めてくるけど? 嘘ついても無駄だ。なまえのえっち」

射精感のせりあがりつつあるペニスをなまえの舌の付け根に触れるほど咥えさせ、喉の奥で亀頭を絞らせる。このまま玩具のように扱って果ててしまいたかったが、苦しそうに喘ぎながらも必死にそれを受け止めてくれる彼女の健気さに胸を打たれ、喉に詰め込むのはやめにした。
セックスを思わせるピストンで、なまえの頬の裏や裏顎でペニスの幹をすりあげる。いずれにせよ彼女の呼吸を奪うおこないであることに変わりはなかったが、彼女をいいように使って自慰をしている背徳感は劇薬のように興奮を高めた。
歯を立てないよう努めながら、従順に口腔を差し出してくれている姿が可愛くて、僕は彼女の髪に指を絡めて引き寄せた。柔らかな耳たぶを親指の腹で弄び、首筋をなぞり、けれども限界を訴える下肢はきつくて、かき抱いた旋毛にしがみつく。

「は……っ、う……。ごめん、もう出る……!」
「んぅっ……、ひいよ、ら、らひて……っ」
「……顔にかけていい?」
「へ……、え?」

水音と息遣いが木霊する中、丸めた瞳で僕を見上げた彼女だったが……すぐに驚きに満ちた瞳孔を瞼の裏に隠した。きゅう、と瞑られた眼は、これから顔に吐かれる精液を覚悟するもので……。ただ頷かれるより余程興奮する。
ずる、と引き抜いた怒張の先端で、欲が爆ぜた。迸る白濁とした子種をぱたぱたと彼女の額や鼻先に零していく。
彼女の顔に己の醜悪な欲望を塗りたくったとき、僕は忘我するほど気が高揚していた。

「っ、はぁ……。はは、すごい出た……。ほっぺも、おでこも、僕のでどろっとしてる……。あー、可愛い……。なまえの顔、僕の精子まみれだな」
「あ……、はぁ……ふ、はぁ……」

口元に垂れた白いものを一滴、掬い上げた指で、彼女のはくはくと酸素を求める唇のうえを何度も往復する。
開けてと促せば、躊躇いがちに割り開かれた。自らの白濁を乗せた指先を歯の隙間から差し込むと、先走りと唾液で濡れた舌がゆうるりと迎え入れてくれる。れろ、絡んで、精を舐め取って。

「可愛い、なまえ……。僕の精子、美味しい?」
「……っ、う、んっ。れいくんのせいし、おいしい……っ」
「はは、嘘つき。こんなのまずいだろ。でもありがとう。上手だったよ」

彼女の口腔から指を引き抜くと、絡められていた舌が名残惜しそうに顎の上でもたついていた。
あまりにもかわいいからキスをする。忠犬のように膝立ちをしている彼女を抱き込んで、舌先で上顎をくすぐると、彼女は甘い声をあげて身体を震わせた。ちゅう、ちゅ、と拙いながらも一生懸命僕の舌を追いかけてくる彼女に愛おしさと嗜虐心がこみ上げる。
ああ、だめだなあ。
口の中全体を味わい尽くすように舌を這わせていくと、自分のそれが分泌した先走りと精液の青臭さが味蕾を穿つ。

「ん……っ、やっぱりまずいな……。すすごうか」

蛇口を捻るとシャワーが流れ出す。水温が毒にならない程度になるまで待ち、水圧を弱めたそれで彼女の顔を洗浄した。水と溶け合った自身の白濁が排水口へと消えていく。



それから更に数日が経過した11月中旬、ついにハロウィンの夜の負傷は綺麗に消えて無くなっていた。
そしてお待ちかね、遅れてやってきたハロウィン・リベンジマッチ。
安っぽいコスチュームで婦警に扮した彼女は、もじもじと膝を閉じあわせて、今にもめくれ上がりそうなスカートの裾を恥じている。
水色のシャツに、紺のネクタイとタイトスカート。丈の短いスカートから伸びる脚は、程よく肌の色が伺い知れる中程度のデニール数のストッキングに包まれていた。鍔が硬めの警官帽は、やや彼女の頭には大きいらしく、少し姿勢を変えるだけでもずれてしまう。

「ホォ――……似合うじゃないか」

僕は顎に指を添えるお決まりのポージングで、頭から落ちそうになる警官帽を抑える彼女をまじまじと眺めた。
彼女を目の前に立たせたまま、ひとり尊大に椅子の上で脚を組み直すと、するり、と肩を黒いマントが滑り落ちる。

――零君はコスしないの?

そんな彼女の鶴の一声で、僕も警察学校時代の仮装に使った吸血鬼の衣装を押し入れから引っ張り出す運びとなった。
襟の立てられた、膝まで隠れるロング丈のマントに、臙脂色のベスト。マントの裏地も同じく臙脂だ。下のドレスシャツは純白で、首元をふわりと飾るジャボは柘榴色のフェイクジュエリーの煌めくアクセサリーで止められている。
今日は仕事でフォーマルな食事会に出席した帰りで、前髪をワックスでセンター分けにして固めていたので、図らずもちょうど同期たちとのハロウィンと同じ格好となっていた。

――飛び込みでコスプレなんてするんじゃなかったな……。

まだ赤色への嫌悪感がなかった頃に購入した衣装には、あの難い色彩がふんだんに使われている。取り急ぎベストだけは仕事用のスーツのものに取り替えてみたが、ジャボの飾りとマントの裏地は見ていていい気がしない。
というわけでメゾンモクバのアパートの一室には吸血鬼とミニスカポリスに扮したいい大人が2人、対峙していたのだった。

「どういう舞台設定なのっ!!」
「突っ込むとこそこか」

まあ僕も同じことを思わないでもないが、ハロウィン当日の渋谷の多文化で無国籍な混沌に比べれば吸血鬼と婦警のミスマッチなど可愛らしいものだ。なにせあの日のあの街には怪盗キッドとウォーリーと赤ずきんと狼男と海賊と悪魔とミイラとフランケンシュタインの怪物が入り乱れていた。

「恥ずかしがってた割には案外平気そうじゃないか」
「かっこいい格好した零君見れるのはやぶさかじゃないよ。髪アップにするのかっこいいね」
「それはどうも。光栄だな。髪いじるなんて久しぶりだから、ちょっと照れるけど……」
「次は零君がお巡りさんの格好してね?」
「リアルの職のコスプレはちょっとなぁ……」
「え〜、かっこいいお巡りさん見たいのに」
「今は君がお巡りさんだろ」
「ね、どうしたらいい? 職質したらいいの?」
「好きにやってみろ」
「零君のラリー信じるからね」

不安そうに眼を泳がせたなまえだったが、おずおずとロールプレイを開始する。

「お兄さん、ちょっとお話よろしいですか? 身分証とかってあります? 最近このあたり、薬物の取引が多いんですよ。身体検査させて頂いてもいいですか」
「どうぞ? かわいいお巡りさん?」

椅子に座ったままお好きにどうぞとばかりに両腕を広げれば、ひしりとなまえが抱きついてきた。背中に回した腕で服の上からさすさすと僕に触れ、胸板の硬さを確かめたり、腰を撫で下ろしたり。毒にも薬にもならない無糖のふれあいはいやに業務的で、焦らしにもならない。
ぺたぺたと僕の躰をなぞる彼女の様子を伺っていると、手は腿の付け根から踝まで撫で下ろし、靴下越しに踵やつま先を撫でた。どういうつもりなのかわからない。

「そんな足の先まで触るんですか?」
「結構いるんですよ、薬物を靴や靴下の中に隠し持ってる人が」
「……よく知ってるな」
「派手めな友達が職質された時に靴下まで脱がされたんだ。……うーん、怪しいところは特に無いみたいですね。ご協力ありがとうございます」

――いやいや、終わらせるな。

「まだあるだろ、調べてないところ」
「え?」

僕はきょとんと首を傾げる彼女の手を取ると、既に張り詰めている下肢に連れて行った。

「こーこ。少し膨らんでるだろ。何か隠し持っていないか、確かめなくてもいいのか?」

彼女は目を丸くして驚いており、服の上から性器に触らせられて、ぴく、と一度震えた指が物足りない刺激を齎す。
その小さな手を自分の小麦色のそれで上から包み、こうするのだと教え込むようにゆっくりと上下に動かし始める。力を強めるように促しても、まるで壊れ物を扱うかのように優しく撫でてくるものだから、逆に焦れったく感じた僕は彼女の手ごと性器をややちからをこめて握った。
まがいものの婦警の服を着せられ、わけもわからず固まっているなまえの手で自慰をしている。もどかしい刺激以上に、状況が快楽の質を高めた。快感を逃がすようにため息を零せば、我に返ったように彼女が言う。

「えっ、あっ、えーっと、一級えっち罪で現行犯逮捕です!」

かちゃん、という金属音。言葉の次には僕の両手首には玩具の手錠を掛けられていた。
浅はかにも彼女は、僕の両手を塞いだ程度で自分のペースを守れたと安堵しているらしい。
こんな安物、僕ならヘアピンが無くてもこじ開けられるし、なんなら力任せに引きちぎって壊してしまうという手もある。勿体ないから後者の壊すという択はなしとして、しかし不自由な身のまま彼女に手綱を引かせるお遊びに興じるのもまた一興だ。満足したらリードを奪い返せば済む話。
僕は拘束された両手を持ち上げ、これで身動が取れません、なんていうように彼女に見せつける。

「色々諦めたな? リアル路線でやりたくなったらいつでも言ってくれ、僕なら付き合える」
「私が付き合えないよ」
「完全監修してやろうか? 現役警察官が」
「難しいこと考えながらしたくない」

立っている彼女と座ったままの僕。普段と逆転する形で目線の高さに差が生まれている。珍しい視点から彼女を仰ぎ見ながら唇を三日月のように歪めれば、そんなことを言って顔をふいと背けてしまう。ほう、と僕は眉を吊り上げた。

「したくないんじゃなくて、できないの間違いなんじゃないか? ぐずぐずになったらそんなこと考えられなくなっちゃうもんな」
「そういうことばっかり〜!」

これ以上脇道に逸れるのはやめとして。「まあいいや」と話題を打ち切って。

「……お巡りさん、僕、本当に何もしてないんですよ。やましいことなんて何一つ無いんです。なのでそれを証明するためにも徹底的に調べてくれませんか?」
「もう調べたじゃないですか。薬物出てきませんでしたよ」
「もっと、服の下まで……隅々までお願いしますよ」
「わ、わっ……! は、はい……」

椅子の背もたれに手をつかせ、屈ませた彼女の耳元に吐息と声を吹き込めば、妙に上擦った返答が跳ね返ってくる。

「……何慌ててるの?」
「かっこいいからでしょ! 零君が!」

僕はちょっと照れた。29年生きてきてそれなりに言われ慣れ、躱し慣れている形容詞でも、なまえの口から紡がれるとまた違った響き方をする。
彼女の腰を抱き寄せると自身の膝の上を跨ぐ形で座らせた。僕の両腿を挟むために脚を広げるせいで、膝上のタイトスカートはずりあがってめくれた。そのみっともなさが隙だらけで、腰がまた熱く重くなる。

「じ、じゃあ、耳、調べますね……」

鬢を耳の裏に流したなまえが僕の耳殻にちゅうと吸い付く。吐息がかかるだけのキスは味見だったらしく、そのまま軟骨をやわいくちびるに食まれた。つう、と耳紋を調べるように舌先を這わせられると瞼が震えてしまう。

「んっ……。お巡りさん、普段からこんなえっちな取り調べしてるのか? だとしたら少し妬いちゃうな……」
「どうだと思います?」

彼女はそう言うなり、舌を尖らせて耳の穴の中に差し込んできた。唾液をたっぷり含んだぬかるむ肉で敏感な穴を弄られ、ぞくりと肌が粟立つ。
じゅぶ、とわざとらしく音を立ててしゃぶられ、口を寄せられていないもう片方の耳は指でやわやわと耳朶を揉まれると、手錠を着けられた手の指が僅かに痙攣した。
快感を生じさせる迷走神経が多く走っている耳の穴は、いわば性感帯のようなものだ。
膝の上で身じろぎをする彼女の腿が、服の中に閉じ込められたまま窮屈がっている昂りをさりげなく擦る。それと耳への悪戯とが合わさり、脳髄が痺れていく。

彼女の細い指先が、かり、と耳たぶを引っ掻いた。その瞬間、僕は情けないことにびくりと身体を跳ねさせてしまった。それでやり方に確証を得たらしい彼女が、今度は耳たぶに歯を立ててくる。甘噛みされて、はぷはぷと唇で挟まれて、時折熱い息をかけられ、眉を寄せずに耐えることが難しい。
少し背筋を伸ばし、彼女の白い首筋に舌を這わせると、幽かに悲鳴を漏らしてようやっと耳を開放してくれた。

「お兄さんの服、脱がせちゃいますね」

なまえの手が首元のジャボにかかり、襟を控えめに肌蹴させる。
ちゅ、ちゅ、と可愛らしい音を立てるキスを鎖骨から肩にかけて施され、思わず笑ってしまいそうになった。嘲笑というよりは、微笑ましさである。彼女はきっと、自分が何をしているかも分かっていない。僕に触って、舐めて、吸って、愛撫しているつもりなのだ。
手錠のおかげで悪戯をしかける手段も数はない。暇を持て余した僕は、自分を親鳥だと勘違いして甘えてくれる雛でもいとおしむような心地で、彼女の拙い愛撫を眺めていた。
そして、矢庭に思い立ち……。

「――」
「……いっ!? ったぁ……!」

かぷり、と偽物の八重歯でなまえの首筋を噛んでみる。想像以上に鋭利な歯の切っ先は皮膚に食い込んだようで、彼女はがばりと顔を上げた。
なにするんですか、と至近距離から僕を睨まれるが、小さな犬の吠え声のようにぬるい威嚇だ。瞳を潤ませ、頬を赤く染めた彼女は、まるで発情しているみたいで、怖いどころか食べてしまいたくなる。

「ちょ、公務執行妨害ですよ……!」
「んー?」

どうやら主導権を握りたかったらしい彼女はぽこぽこと僕の肩を叩く。痛くも痒くもない講義を右から左へ聞き流し、蜜林檎よりも甘いであろうその唇をうっとりと視線で辿る。キスは勿論、指先でなぞったりもしたいものだが、生憎まだ手が自由ではない。そう、まだ。
彼女の眼界の外で、僕は、密やかにかちゃかちゃと手首に光る鈍色の金属を擦り合わせていた。かちゃんっ、と決定的な解錠の音を耳朶に拾うと、にやりと唇を歪める。

「悪い、ちょっとぎゅってしてくれないか?」
「え? うん」

プレイとは別件ですよ、いつもの僕ですよ、というアピールをまぶした“降谷零”の声色でそう求めれば、不安になるほど素直に彼女は僕に抱きついてくれた。
先程外した手錠を握り、後ろ手になまえの手を探る。そしてたった今まで僕を拘束していた錠を彼女に付け替えたのだった。僕の脇の下を通して背中に腕を回させたその手に、錠を嵌めれば、絶対に外れない抱擁のできあがり。

「え……!? えっ、なんで……れいくん、どうやっ、」
「さぁ、どうやったんだろうな?」

答える気なんて更々無くて。間に僕の上半身を挟んだまま掛けられてしまった手錠を外すべく、がちゃがちゃ手を揺らしている彼女にはお構いなしに、腰を抱きかかえて席を立つ。
彼女は突然の浮遊感と、親に抱かれる赤子のような運び方、そして妙な嵌め方をした手錠にわあわあと手足をばたつかせるが、しかしそう安々と脱兎にしてやる僕ではない。

「わっ、落ちるっ! 落ちる……! 落ちちゃうよ、零君!」
「落とさないよ」

それだけはきっぱりと断じた。僕の筋力を舐めてもらっては困る。
駅弁のように彼女を抱いて和室のベッドまで移動すると、シーツの上に襟や裾の厭らしく乱れた婦警さんを転がした。
彼女の腕が伸びる分しか距離はおけないため、僕ものしかかる格好でマットレスに乗り上げる。

「警察官がこんなことされちゃっていいのか? 手錠奪われて、逆につけられて……。これでよく警察が務まるな」
「ふ、やぁっ……ごめんなさい」

お返しとばかりに腿を撫で上げ、既にめくれているスカートの中まで忍び込ませる。足の付根を辿り、後ろに手を差し込んで尻の柔らかさを堪能した。
めくれた裾の奥、ストッキング越しに見るショーツはやたらと背徳感を帯びている。
首筋にキスを繰り返し、口づける箇所を下へと下ろしていく。キスが滞らないように同時にぷつぷつとシャツの釦を外して、下着に守られた乳房には僕に抱かれた証明として痕を残した。

「さて……かわいいかわいい僕のポリスさんはどんな取り調べをしてくれるのかな?」
「……っ、まっ、待って、思いつかな……っ」
「今ので台詞飛んだ? いけない子だな……。次から台本でも用意しようか」
「学生時代に小説コンクールで最優秀賞取って賞金50万もらったことあるとか言わないよね……?」
「は? ないけど。僕のことなんだと思ってるんだ」
「どうかな、零君のことだから読み込まないと怒りそうだし、自分は暗記して来そうだし……」
「……君、僕のことなんだと思ってるの?」

呆れながらブラのホックを弾けば、ほろんっ、と胸が弾むようにして溢れる。

「きゃ〜っ! 何でもできてかっこいい彼氏さん」
「正解。最も、今は君の被疑者なんだけどね」

邪魔なカップは胸の上までずりあげて、顔を出したふっくらとした柔らかさのあるそれをくにくにと揉みしだく。そのたびに彼女の体はびくんっ、とはねる。
胸の飾りを人差し指と親指でつかまえて、きゅっと摘めば、今度は息を飲むように喉を引き攣らせた。
シャツは開け放されていたが、空気を読まないネクタイだけがぺろんと臍の上に垂れていた。退けてしまってもよかったが、剥き出しの胸の上に緩められてもいないネクタイが垂れ、谷間に挟まって双丘を二分割している様が視覚から僕を煽るので、そのままにする。
べえ、と見せつけるように垂らした舌先で、ころんとした突起をつついて、押し潰して、唇ではさみこんで……そうしていると、彼女の口から甘い声が上がるので、僕は夢中になって何度も繰り返す。
もう一方の乳首は指で相手し、念入りにそこを可愛がり続けていると、次第に血の色を透かしてぷくりと腫れてくる。色づいた頬みたいに、恥ずかしそうに赤みを灯す先端を放っておくことなんてできなくて、ぱく、と口に含んだ。

「ひゃ……っ、歯、あたってる……っ!」
「嗚呼……噛まれたくなかったらおとなしくしていてくれ」

つけ牙で再現した、“ドラキュラの歯”とも称される鋭利な八重歯。言われて初めて意識に浮上したそれを、つ、と口内の乳首にあててみる――無論、傷つけないよう、触れるだけだ。きつく食い縛ればすぐに外れる安物だが、噛んでしまうよ、という細やかな脅しはいいスリルになるだろう。
舌先で舐めて、唇で挟んだまま吸い上げると、彼女の腰がくねる。
さらに強弱をつけて吸えば、彼女が僕の背中に抱きつこうと腕に力を込め、ついでにスカートから伸びる腿で腰を挟んできた。嗚呼、そんなことをされたら、もっと舐めて吸ってやりたくなる。僕の腰を締め付ける厭らしい腿は、内側に手を這わせて、またあとで、とたしなめて。

「あっ……んっ」

ちゅう……ちゅくっ……大袈裟に音を立てながら夢中になって吸っていれば、彼女の手が弱々しくマントに包まれた背中を引っ掻く。手と口で両胸に毛色の違う刺激を与えれば、僕の背中でまとめられた手がかちゃかちゃと音を立てた。喘ぎや吐息に加え、手錠の奏でる金属音が彼女が善がっていることを教えてくれる。非日常的な異音を伴うセックスはどこか新鮮だ。
揶揄うように胸に顔を埋めたまま彼女の顔を仰ぎ、ぢゅぷんっ。わざと音を立てて口を離せば真っ赤になった突起が唾液によってぬらぬらと濡れている。
早くもくったりとした彼女と視線を結びあう。彼女は、はふはふと呼吸を繰り返しながら、煮詰めた蜂蜜を想起させるとろんとした目つきでこちらを見つめていた。
その瞳の奥にある熱は、未だ冷めやらぬ――当然、その鏡のような瞳孔に反射する僕の熱も、冷める気配はない。

「なぁ、えっちなお巡りさん……僕と司法取引しないか。気持ちよくしてあげるし、望むことなんでもしてあげる。だから僕のこと開放してくれるよな」

うやむやな、頭の螺子が幾つも外れたような提案は、我ながら酷く頭が悪そうだ。けれども馬鹿馬鹿しい大人のごっこ遊びにはこれくらいが似合いだろう――。



絶対にほどかれない抱擁をされながら夢中になるキスは気持ちがいいが、さすがに煩わしさを覚え始める頃だった。
背中に回させた彼女の手から手錠を外すと、ずるっ、と脱力したように滑り落ち、ちからの入っていない指がシーツの上に投げ出される。抵抗の意志も削がれていそうな手だが、改めて捕まえて頭の上で一纏めにし、手錠をかけ直した。

タイトスカートに手を潜り込ませれば、先の展開を予感した彼女が腰を浮かせ、脱がせるのを手伝ってくれた。生憎だがスカートは着せたままで続けるつもりだ。
寝台から浮かせられた腰からストッキングと下着を丁寧に引き抜いて、白い腿と、その奥の影に秘められている秘部を露わにさせる。僕の手の中のショーツはクロッチのところに彼女の体温をぬるく残すぬめりを纏わりつかせ、ストッキングにも染みを作っていた。これを零したそこはどれほど濡れているのだろう、と舌なめずりをし、僕は彼女の腿に、つつぅ……、と指を這わせていく。
くすぐりながら辿り着いた脚の狭間は、少し掠めただけの指先がぺとりと濡れるほど潤いを帯びていた。さらには蜜を受け止めてくれるクロッチを剥ぎ取られて、ほろほろとシーツに零し始めている始末である。
僕は彼女の両膝の裏に手を差し込んで大きく押し広げると、べろ、と恥丘の谷全体を舌で舐め上げた。

「ひあっ! へ、あ……っ!? なに、やって……っ!?」

驚いたなまえががばりと上肢を持ち上げ、恥ずかしい場所に鼻先を埋める僕を見ている。

「何って、口でしてあげようかと」
「い、いいよっ、そんなの!」
「できなかった間、僕のも舐めてくれただろ。お返しだよ」

閉じられようとする腿の間に自身の肩を挟んでしまえば、それだけでつっかえ棒として阻めてしまう。
ぱたぱたと暴れる太腿が僕の頬を掠めるが、柔らかなそれに攻撃されても肉球ではたかれたように心地が良いだけだ。
とはいえ手錠はもう一組用意しておいてもよかったやもしれない。大胆に開脚させた状態で縛って、はしたない蜜を零す裂け目を眼前に暴いて、羞恥を煽ってやるのもそそられただろうに。見誤った。

「やだやだぁ!」
「はいはい」

じたばたする脚を雑に諌め、目と鼻の先にある肉の割れ目に指を引っ掛ける。くぱり、と広げたそこに鋭くした舌先を差し込んでやれば、瞬く間に彼女は聞き分けが良くなった。

「や、やぁ〜……っ」
「んっ……。やじゃないくせに」

窪みの中でくるりと円を描くように舌を蠢かせる。
なまえが喉をのけ反らせたり、あまったるい声を漏らす度、癖になる雌臭さが鼻孔をついた。
僕の唾液と彼女の愛液が舌の上で混ざり合っていくが、どんどんと滲んでくるせいで、それらが泡立つ頃には愛液の比率が高くなっていた。どうしたって僕の口や鼻の回りを濡らし、顎にまで伝ってしまう彼女の体液。どうせ寝具に染み込むだけなら……こく、とひとおもいに嚥下してみる。

「のっ、飲むのだめっ! 汚いよぉ……っ」

彼女は僕の髪を掴んで引き剥がそうとするけれど、力が入らないのかすぐに諦めてベッドの上に倒れ込む。そんな彼女を挑発すべく、じゅるっと音を立てて溢れてくる蜜を吸い上げた。

「吸っちゃやぁっ」
「ん、うまい。お前の体液、もっと飲みたいな」

美味しいとは思わないけど、彼女が分泌させたものだと思うと、それが喉を潤すだけでも感じ入ってしまいそうだ。
何よりやだやだと駄々をこねながらも、快楽の掌の上で転がされてしまうこの子の、性と理性のせめぎあいを特等席で眺められる。
絡め取った愛液で濡れそぼった指を使い、陰核を撫でながら、さらに舌先で肉壁を掻き回して、刺激を与え続ける。その度に彼女は腰を浮かせて、快感に耐えているようだった。時折思い出したように暴れようとする足をがしりと押さえつけて、さらに激しく攻め立てる。

「れいくんはっ、吸血鬼なのに……! 血じゃなくてえっちなの飲んだら……っ、サキュバス、じゃんっ!」
「残念、男性の淫魔はインキュバスだ。サキュバスは女性」
「うんちくいらな……ひゃ、あっ……――ふあぁ〜っ!」

刹那。きゅうんっ、と伸縮する肉壁が僕の舌の先端を柔らかく締め付けた。
彼女は甘い悲鳴を零しながら背筋を弓なりに反らす。きつく掴んでいた脚はかくかくと震え、つま先はぴんっと伸びた。
痙攣する奥から、とくとく、と溢れてくるぬめりを最後にちゅっと強めに吸い、僕は肉の蕾から鼻先を遊離させる。
はーっ、はーっ、と熱い息を荒々しく吐き出しながら、枕に埋もれてぐったりとしている彼女だが、僕が上肢を起こすと、離れていく体温を惜しむようにこちらに視線を寄越した。そんな彼女に見せつけるが如く、ぺろりと覗かせた舌で自身の濡れた指をしゃぶり、液を舌で拭い取る。

「糞っ、いい加減、あっついな……っ!」

満を持して僕は重たいマントを脱ぎ捨てた。ばさり、という鳥の羽ばたきのような音を伴いながら、畳に落とされた黒い布がくたばる。ジャボを絞っている柘榴色のフェイクジュエリーを取り払ってこちらもまた畳に投げ、襟を更に広げた。
続け様に慌ただしくスラックスのファスナーに手をかける。焦燥した気持ちを抑えつつジジジ……と下げていくと、下着を一枚隔てても隠しきれないほど怒張したそれがお目見えとなる。先走りによって濡れているせいか、敏感な皮膚に張り付く布を少しばかり冷たく感じた。
ふぅ……と一呼吸置いてからボクサーパンツを下げ、いよいよ窮屈そうにしている自身を、外気にキスさせてやった。飛び出た途端、ぶるりと生き物のように震えるそれは、己を嘲りたくなるほどの馬鹿みたいな膨張率だ。

ペニスにスキンの薄い膜を被せる一手間さえまだるっこしい。生でいい? なんて問うた日にはいいよと即答してきそうな、倫理がふわふわに茹で上がった彼女だから、僕が徹底するしか無い。この子を守れるのは叩き上げた強靭な理性だけだ。
待ち侘びるようにひくついている濡れた窪みに、精をせき止めるための膜を乗せた先端をぷちゅ、とくっつける。唇が半開きなら、舌の口も同じだった。

「ほら、お巡りさん、大事な証拠品、ちゃんと持ち帰れよ。僕のここに入ってるの、今から出すから」
「ひゃっ、ひゃいっ」

まるで僕のためにあつらえられたかのような心地の良いぬかるみの中に、挿入した自身が馴染むまで、深く息を繋ぎながら待つ。やっとできた――とでも告げるみたいに、僕はなまえの臍の回りを撫でた。この皮膚の下に僕がいる。ずっと潜りたかった肉の中に。
こうして性のうつわ同士を重ねられたのは実に2週間ぶりで、胎に踏み込めたことに歓喜しているのは僕だけじゃ、ない。
そんなひとときさえ焦れったく感じられ、理性の楔を断ち切って奥を突く夢想を脳裏に迸らせた。
彼女は頭の上で束ねられていた両手をこちらに伸ばし、僕の愛液に濡れた鼻や口周りを拭ってくれる。その掌にキスをして、ついでに舐めてみると初な反応。

「随分、きつい……なっ! 君の中……っ」

僕のもので卑猥な窪みに栓をしてやれなかった間に、そこは僅かにではあるが閉じかかっていた。単に狭くなってしまったからか、それともやっとというように肉壁全体で僕にしがみついてくるからか。律動にも苦労するような締め付けだ。

「ひさしぶり、だからっ……」
「へえ、自分でしなかったのか? やっぱり真面目さんなんだな、お巡りさんは」

言うと、絡む肉を払い除けるように腰を引いて、すぐにどちゅんと差し込んで空白を埋めてやる。

「行かな、あぁっ……! れいくん……っ、出てっちゃやぁっ」
「そんな顔するな、ここにいる……っ!」

自分の影の中に彼女を捕らえるように覆い被されば、手錠でできた腕の輪っかに首を通される。がちゃがちゃうるさい手によって頭を抱き締められた僕は、そのままなまえの首筋に顔を埋めた。
どこから食ってやろうか――狙いを定めるように舌を首筋に這わせていく。熱い粘膜に包まれる感覚にびくびくと今まさに味わっている肩が跳ね上がる。じゅるりと強くそこを吸うと、痛みにひくつく彼女の喉。僕はくすりと笑いながら顔を上げ、ちゅぽんと音を立てて唇を離した。
赤黒い鬱血に舌なめずりをし、赤く腫れたそこに再び舌先を当てればぞくりと背筋が震えた。かぷ、とキスマークの上から歯を立てる。

「あぅっ! いたぁっ! 噛んじゃ、だめ……っ! ふぁっ!」
「本当にだめ? ん、っ……噛むと中、締まる、けど……っ」
「んっ、や……いたいの、きもちい……っ。やっ……なのに、きもちっ、あっ」
「じゃあもっとがぶがぶしてやろうな」

つけ牙を指で引っ掻いて外し、畳に投げ捨てる。唇の端を軽く吊り上げ、僕自身のほんとうの歯を彼女の視線の先に晒すと、一等強く噛み付いた。

「あっ、がぶがぶ、だめ……」

舌足らずな甲高い嬌声が僕の頭の上から溢れる。
――猿にポルノとハイヒールを同時に見せ続けると、やがてハイヒールを見ただけでも欲情するようになる、という実験がある。
本来ならば首筋を噛まれたところで突き刺されるのは痛覚だけだろうが、歯を立てるさなかもピストンを一切緩めず、快感をたらふく流し込めば、噛むことと痛み、突くこととと快楽の繋がりがぐちゃぐちゃになり、噛みつかれるだけでも気持ちよさを拾うように再学習されていくだろう。

――僕に噛まれるから気持ちいい、というのもあってほしいけれど……。

痛みが快楽に置換されていく中、幼子のようにいやいやをするなまえの泣き顔が僕の欲をことさらに膨張させる。ああもう、逆効果。八つ当たりのように激しく腰を打ち付けて、肩にも鎖骨にも歯牙を剥いた。

「うぅぇ……れいくん痛いっ。がぶがぶ、しちゃっ、んぁっ……やだぁ……!」
「こら。やだじゃないだろ。警察官が虚偽の証言なんかするんじゃない。もっと噛んでって言ってごらん」
「ひぅっ……! もっと、かんで……っ。れいくん、噛んで……っ!」

いい子、いい子、と枕に散らばる髪を撫でて、僕が揺さぶる度にふるふると揺れるその乳房にも歯を立てる。
隆起して天を仰ぎ、弾む膨らみの中央で震えている先端が、食べて食べてと僕を誘っていた。大きく唇を割り開き、下乳に噛み付いて歯型を残したのち、せっかちに僕に訴えかけてくる胸の飾りに食らいつく。
噛みちぎってはいけないので、舌先で捏ねながら歯の切っ先を押し当てたり、気まぐれに甘噛をほどこしていると、突如、僕にされるがままの彼女には似合わないくらいの、夜襲のような強烈な締め上げを見舞われる。
搾り取られる……! 胎を喰い漁るのも胸をいじめるのも一旦中断し、深く息吹いて体勢を整えた。

――危な……っ! 出るとこだった……。

実は痛いくらいにされる方が好きなのだろうか。そんなことを思いながら、また律動を始めていく。
深々と刺していたペニスを焦れったい速度で引き抜いていく。先端のくびれで肉壁を嘲るようにひっかきながら。亀頭だけを残して彼女の中から出てしまうと、それをまた先程までいた場所に押し込んで、仕舞い込む。
思わず本能に忠実な、焦燥を孕んだ抽送に変わりそうなのをぐっと堪えて、自己を巻き添えに彼女を焦らす。
どうせまた国と仕事が恋人の生活に戻っていくことになるのだから、それを乗り切る活力として楽しめるだけ楽しんでおきたい。悲しいことにいつもながらだが、次になまえを抱けるのがいつになるか見当がつかない、というのもある。
それにまだ――触れられていない箇所だってあるわけだし。

「指と舌じゃ届かないとこ、突いてやろうな」

不敵に笑えばなまえが怯む。ひゅ、と喉を鋭い息が通う音と、手錠の金属がぶつかる音が重なって、滑稽だ。
僕は彼女の両膝裏に手を差し込んで、ぐっと力を込めて担ぎ上げる。彼女の身体を折り曲げるようにして上から突き刺すと、急速に深まる結合。彼女の最深部を穿つ自身で、ゆるゆると8の字を描くように奥を撫でる。子宮の入り口を先端で優しく舐めてやり、自分の下で身悶える彼女にほうと息を漏らした。

「ほら、ここだろ?」
「んぁっ!」

悪戯にぐりっと子宮を押し潰せば、彼女は背中を大きく反らして乱れた。一度びくんっ、と大きく跳ねたあとも、絶頂の余韻で爪の先まで小刻みに痙攣させている。
ただでさえ子宮が降りて狭くなっている彼女の中が、さらにきゅうきゅうと細められて僕を困らせた。わるいこだ。
ポルチオをいじめられて果てたまま、彼女はいっぱいいっぱいになってしまっているようなので、しばらくこのまま待ってやろう。
抉りも引き抜きもせずに律動をやめ、浅い呼吸を精一杯繋いでいる彼女の唇の端にキスをしたり、警官帽の脱げた頭を撫でたりしていると、意外なことに彼女の方から僕を誘うように腰に脚を絡めてきた。さらに疲労と不器用さの伺える拙い動きで、腰を揺すってくれるおまけつきだ。

「もっと……」
「いいのか?」

正常とは言い難い彼女の判断。頬にかかる髪を耳裏にかけてやりながら、一応確認する。

「寂しかっ、たっ……零君、いな、っくて……! 帰ってきてもっ、はっ、ずっと……っ、我慢しててっ」
「我慢っていうのは……僕が怪我してたからか?」

こくん、と頷くなまえに、僕は思わず手で口元を覆った。にやけそうになるだらしのない唇を手の奥に隠し、ついでにため息を喉の奥に押し止める。

――かわいいなあ。

彼女の望みを叶えるべく、子宮の一番深いところを目がけて、何度もペニスで杭を打ち込んだ。
あでやかな悲鳴を紡いでいた唇は深いキスで塞ぎ、声と唾液をこちらで受け入れる。
体重をかけながら容赦なく責め立て、呼応するようにきつく僕を包んで離さない彼女の胎に酔いしれた。

「……っく、出すぞ……っ」
「んっ!」

彼女の中に精液を叩きつけると、一滴も逃がさんと言わんばかりに肉壁がうねる。
どくどくどく、と呼吸と同じ速度で妖しく脈打つペニスは薄っぺらな膜の裡に白い快楽を逃し続けた。暫く経つと射精の勢いは弱まってきたが、まだ続いている気配がある。

「まだ、出てる……っ?」
「はぁっ……いつもより、興奮したからな……」

熱い息を組み敷いている彼女の胸に吐きつけた。
項垂れると睫毛の先に細い金糸がぶつかっていることに気づく。いつの間にかヘアセットの崩れ、いつもの調子に戻ってしまっていた前髪を掻き上げる。晒した額には彼女に負けず劣らず汗をかいていた。
最後の一滴まで精を出し終えた頃、硬度の失われたそれを引き抜く。避妊具の先端に溜められた白濁の量に自分で引いた。我ながらなんて量を出しているのだろう。
こういう仕事をしていると自分で慰める時間も取れないので、濃く重くなりがちだ。
今夜に関しては、セックスの代替の過激な前戯で止まっていた数日が、ようやっとありつけたディナーへの興奮を高めたのだろうが。

「零君……これ、取って」
「ああ、悪い」

彼女の首や胸に残る自分の噛み跡を呆然と数えていると、手錠をしたままの腕が目の前に差し出される。留め具を軽く指で教えて解錠すると、鈍色に光る輪っかをベッドサイドに置いた。
薄くではあるが痕が残った手首に、謝罪の意も込めて口づけると、彼女はへらりと笑う。

「痛かったりしないか?」
「大丈夫。途中からロールプレイ? 忘れてたね」
「あー……そういえば……そんな設定だったか」

横目に部屋の隅を一瞥しつつ、僕は呟く。
「零君でも夢中になって忘れるとかあるんだ」なんて、彼女はくすりと笑うけれど。
そりゃあ僕はいつでも君に夢中だ。手錠どころか首輪を着けて飼ってやりたいなどと企んだことは数知れず。
ハロウィンにかこつけて彼女と仮想や甘味を楽しもうと組み立てていた計画は文字通り爆ぜたが、概ね取り戻せたのではなかろうか。


2023/06/28

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