短編

爪先で銀河が爆ぜる


※イベント『アマゾネスドットコム』リラクゼーション施設 / 図書スペースネタ
※会話文


「そういえばアレキサンダーは本好きだったね。読書中?」
「あぁ、マスター。うん、いつかも話したけれど、物語は好きさ。確かに汗をかくのはもちろんいい。甘味を摂るのもいい――脳がよく回るようになって、疲れもひとっ飛びだよ。でも、ここも安らぎを得るにはぴったりなんだ」
「そっか。でも、あれ。もうトレーニングルームとスイーツコーナーは行ったの?」
「うん、行ったよ。何度かね。ライダークラスはどうも配達業務が適任らしいじゃないか。おかげで大忙し。必然、リラクゼーション施設への出入りも多くなった」
「お疲れ様」
「あははっ、せっかくだからね、施設も制覇中というわけさ。……そうだ、さっき、呂布を名乗る馬の姿の英霊に、銀河キャロットパンケーキというスイーツを強く勧められてしまってね。ブケファラス殿に、って」
「赤兎かぁ」
「なんでも、とても“馬ァァァイ”らしいんだ」
「馬ァァァイ……」
「――さて、と。読書と、君との団欒の続きはまた配達の後で、なんて。まるでどこかの千夜一夜物語の誰かのようだけれど」

いっときの空想を、まるでおもちゃ箱に仕舞うように。ぱたり、とアレキサンダーは軽やかに本を閉じて夢想世界の浅瀬から陸へ上がる。夢から醒めれば待つのは業務だらけの現実だけれど、彼は燦燦と照らすかのような笑顔で言うのだ。

「ライダーの僕は負担も少ないし、速やかな疲労回復も見込める。城に篭って玉座でふんぞりかえる王もいるだろう。けれど、自らの剣で新天地を拓くのもまた王だ。僕は先陣を切って蹂躙――じゃあなかった。配達業、だね、うん。ともかく、そんな王でありたい」
「さすが『カリスマ』持ちの王子様!」
「そろそろ行ってくるよ、マスター」
「いってらっしゃい」


2020/01/28

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