短編

ホウロウポットと砂糖水


がっ、とそいつの襟を引っ掴んで視線の軌道を俺へ直させる。仰がせて、仰がれて、待ち侘びた交差。ひとまず視線だけでも結び合い。
鏡を通じて日に何度も顔を合わせる己の極悪人面に似合わないのは承知の上だが、これでも俺はモラルを揃えている。さすがにこの場でそのまま秘めたところをこじ開けるつもりは毛頭無く、これでもそれなりの深愛を差し向けているこいつが不安がる思惑は胸にはない。深く確かめようとするのなんて、シーツに獣と酷似した裸体を転がしてからでも十分間に合う。
だが揺らぐ瞳孔にはラヴロマンスはかけらもありはせず。つまるところ信頼を勝ち取れておらず、見つめていれば冷や汗くらい視認出来そうな。ショーツの奥まで見せつけられている仲だっていうのに、その辺の信頼関係はどうしてかおざなりだ。
それ以前にこの困惑の仕様は一体どこから引きずり出しやがった初心なのだか。乱れに乱れた獣を知ると、理性的な言動から信頼が欠けていく。嗚呼、こいつもまた俺に対してそうなのか。情けない。
つぅ、と手袋のままの指を頬に這わせてやれば、睫毛が痙攣。
この悪戯めいた調子で脳髄まで弄ばれるか、はたまた昨夜のように手酷く胎内を荒らされるかの、分かれ道の予想図を机一杯に広げているらしい生贄羊の馬鹿女に俺は教えてやる。
――展開を握っているのは俺なんだぜ?
拓くのは三つ目。
先程までは喰い散らかすようなキスを食らわせてやるつもりでいた唇に、自身の体温をそっと落としてやった。
……手前瞑目忘れてんじゃない。雰囲気ぶち壊してくれるな。
それとも。はたまた。斜め上から優しく殴れた印なのだろうか。


2018/06/20

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