短編

一寸だけ先の聖域


※女学生シリーズ『ハニーミルキィ・ドライバー
※話中に背徳的な描写がございます。ほんのりとしたものではございますが、義務教育を終業していらっしゃらない方、実年齢が満15歳に満たない方のご閲覧はお控えくださいますようお願い申し上げます。



もう少し一緒にいられませんか、今日両親いないんです、と頬を朱色にする助手席の乙女にこちらが蒼褪めそうだった。
何も床を共にすることに於いて不能な訳ではなく、寧ろ恐らくは欲は厚く強い部類に入るくらいだろう――全国的な日本男児の下世話な事情など知ったこっちゃないが。
今にも取って喰い兼ねない獣がいたいけな女学生を助手席に乗せて密閉空間にいるだけでも相当な無茶だという事さえ知らずに、なまえは寝室に招くような事を宣うのだから嘆息ものだ。その手の打撃は鳩尾に深くめり込むことをまず教え込まねば。
同年代か、同じぐらい深い闇に身を沈めた女相手ならいざ知らず、俺にとってあまりに純で眩しいなまえはどうしたってセーラー服が境界になる。聖域に夢は見れど汚す結末が決まりきっているが故に手を伸ばせなかった。
ここまでつらつらと語って於いて、結局俺は正直に生きる道を選び取る訳だが、選ばせたのは他でもないなまえへの同情だった。小さな握り拳を拵えてぶつけられてみろ、細やかな一世一代を冷淡にあしらい続ける方が、欲望を堪え続けるより何倍も酷だ。

いそいそとなまえが自室の扉をくぐった、刹那。バタン! と人様の扉ながら後ろ手で乱雑に閉め、室内を密封し、真新しい水の香りをまとわりつかせている少女の唇を頂く。
緊張と汗を人工雨で排水溝へおさらばさせていたのであろうなまえには想像もつかないだろうが、正直こちらも単身敵陣に放り込まれた折以上の居心地の悪さが嫌で仕方が無く、一刻も早く現実を忘れたかったのだ。瑞々しく、食べ慣れない果実そのものの唇は深みを穿り返さずとも十二分に脳髄を痺れさせる。
因みに俺は送迎前に組織のシャワールームを借りている。最悪煙草の煙たさと汗臭さは妥協して貰えたとして、血生臭さや火薬の気配は落としてこないと社会的に危ぶまれる。
「怖くなったらちゃんと言えよ。俺もそこまで切羽詰まってる訳じゃねえんだから」
「はい。でも大丈夫ですから。中也さんですし」
その俺だから危ないんだがな、とは言わずに。
誇っている腕力を大いに振るい、なまえを抱き上げて寝具に座らせる。小振りな頭を捕縛して唇へ重点的に吸い付きながら、前髪やら頬骨やら至る所でリップ音を散らしていく。
肩を軽く押して押し倒そうと試みたが、覆いかぶさるのは怖がらせるやもと考えを改め、座らせたままで事を運ばせる事とした。解いたセーラー服のリボンの音の小気味好さときたら。
「じ、自分で脱げます」
「10代20代のうちは男に委ねといていいんだよ」
「はい……っ」
現代かつ日常的に身につける制服なだけあって脱がせやすさは中々だ。目だないチャックやボタンを外して少しずつ崩していくのだが、何か一つが解除される度に睫毛を震わせるなまえが堪らなく愛おしく脱線して目尻に唇を寄せた。
「力抜けって。ほら、万歳」
ばんざーい、と素直に手をあげてくれるような幼げな部下は持たないので新鮮だった。こいつの比ではないぐらい世話のかかる太宰基地外のリトル・ガイならいるが。
無地のキャミソールの胸元からは一枚下のブラジャーの淡い色のレースが零れ出ており、あぁ俺に許すつもりはあったのだなと少々自惚れてみる。慰めと様子伺い程度のキスを挟みながら、こちらも万歳で脱がしてしまい、半裸までこぎつけたのは果たしてあっという間だったのか長い道のりだったのか。
なまえは濡れかけた視線をシーツの皺に落とし、己で身を抱くようにして俺から半身を遠ざけようとしている。つつ、と肩紐の線をなぞり、ちょっかいで意識をさせて。
さすがに今日だけで自分の全部を受け入れさせようなんて無茶は思っちゃいない。どこかで“嫌”か“無理”の一言を誘い出せやしないかと顔や息の色を伺いながらだ。
なまえは恥じらいが優ったのか唇を色が変わるほどきつく引き結んで、活字には起こさず俺の袖を摘んで訴えかけてくる。せがんでくる。仰せのままに、と俺は肉付きの薄い上肢を抱き寄せて肩甲骨を眼下に収め、留め具を引っ掻いた。
はらり、と肩紐がたゆみながら滑り落ちていく。マットレスに落下した下着は無遠慮に掴んで脱がせた衣類の山に重ねた。裸の肩にキスすると跳ね上がる。
「あー……触るぞ」
童貞臭い断りもこの際致し方が無い。
「いたく、しないでくださいね……」
「わーってるよ」
双丘は掌で包み込むだけで、ふにゅ、と指を少し動かすのみに留める。こいつと関係を結んで以来久しく触れていなかった脂肪組織はとろけるようで、指の皮膚が融解して同化されてしまうように錯覚した。異性を知らないこの肌は少しの刺激で細胞から崩壊し始めそうなほど脆そうで。
脳裏を支配する恥じらいをどうにかしてやろうとやや雑に唇を合わせて、絡めて仕舞えば無問題とばかりに割り開き、迷子のなまえの舌をひっ捕らえに向かう。態とらしく水音をかき鳴らして鼓膜の神経をそちらに差し向けさせ、その間にほんの少し、触る手の強さを揉みしだくという言い回しに近づけてみたり。やや色素の濃い乳輪をするすると撫で、先端に触れることを予感させてやったり。こちらが焦らされているような愛撫を施した。
その後、うっかり流れのまま当然のように突起を口に含もうと顔を近づけると、えっ、と潤んだ声が聞こえてきた。はっとする。
「嫌ならしねぇよ」
「された事ないですしわかりません……」
だろうな、と思うと同時にいじらしい処女性の鈍器に後頭部を強打さらる。
「噛みませんか……?」
「おぉ」
それも戯れのうちに入るのだが追々に教えようと現時点では勘弁してやる。会話自体はなんだか犬猫畜生の引き取り相談みたいだった。
改めてなまえの臀部の横に手を突き、頭を低めて、まずはキスから落としてみる。
「どうだ。最初は気持ちいいかもよくわかんねぇもんだろ?」
こく、とかぶりを揺らす程度の余裕はまだあるようで。暫くは角度を変えながらキスを繰り返し続けた。れろ、と舌を出し、またもう片胸の方も指で構って駒を進めてみる。その都度びくびくと身を震わせる肩は可哀想で、同時に愉快で愛おしく、ぢう、と悪戯心から強めの吸引。
ちら、と眼玉を転がして仰いだなまえの唾液で妖しく光る口元に、どうにもそちらが恋しくなり、ぐぐ、と背筋を正して肉薄した。すぐに小鳥の啄ばみではいられなくなり、口腔を蹂躙する。唾液を泡立てるように掻き乱していると、ついになまえの背筋がふにゃりと怪しくなって来るので楽になっちまえと押し倒した。
「あの」
「どうした」
「この後って……」
「そうだなぁ」
手前に出来んのか?
覆いかぶさる俺は、にぃ、と歯を覗かせて笑う。当然下肢である。
腿からスカートの中に手を滑り込ませ、布越しに純な割れ目をつぅ、となぞってやった。そんな風に未知を与えたりをして、敢えて意地悪く挑発し、逃げるように促す。拒否を誘発しようとする。
健気にも少女は未熟な場所で俺を受け入れるつもりでいるようであるから、せめて胎内を味見する程度のことは出来ればと思うが。
じわじわとスカート、そして下着を降ろしていく。腿の辺りまで下げた時、なまえが顔を覆い隠した。
「わかるか? ここ、準備は出来てるっぽいの」
言葉で煽って嬲ってみる。
窪みの入り口を円を描くように一周撫ぜ、指を一本中に沈める。
「自慰ぐらいならやったことあるだろ?」
「G……?」
「悪りぃ、忘れてくれ」
強張る肩をどうどうと宥め、力みのある瞑目の仕方にキスを落とし、ひとりで震えている手を繋いでやった。
指を差し込んだ胎内は熱く狭く、押し戻そうとする一方で絡み付こうともして来る。肉壁と摩擦させて受け入れさせる。他人はおろか自分でも触ったことの無い場所へ異物に踏み入られる羞恥と恐怖は耐え難いだろうに。
俺にしがみついて来るなまえを片手で抱き返した。深くビターに口付けて意識を宙に霧散させ、また時折遊離させては狂っていく呼吸を整えさせる。キスでコントロールしてやり、正しい呼吸法を浸透させていく。舌で開かせた口からはとめどなく似合わぬ矯正が溢れ続けるが、その全部を合わせたところから俺が食らっていくので喉に反響するだけだ。
下肢の芽を摘みあげれば、喉が反り返る。きゅう、と第一関節と爪の辺りを一層強く締め上げられた。果てだ。
このぬめりと蠢きに包まれて、処女膜を貫けたら、どんなに――邪な夢を見るくらいは悟られなければ許される。
睫毛の先端に溜まっていた雫は盗んでやって。
「まぁ、あれだ……。頑張ったな」
えっ、でも、と背伸び癖のある子供は捨て猫の面持ちになる。
「餓鬼相手に無茶させるほどこっちも餓鬼じゃねぇんだよ」
「でも……」
膝を立てている脚に、するり、と手が滑り、言わんとしていることは察する。高揚を証明する芯では隠しきれてはいない訳であるし。
「こんな風じゃ苦しそうです」
「まぁ、な」
観察眼と対人の想像力は褒めてやろう。しかしながら。
「あとからどうとでもする。大人だからな」
「さっき仰っていた『G』ですか?」
「それ、外ででけぇ声で言っちまっても不味いからあとでググッとけよ。ちゃんと履歴消してな。プライベートモード推奨だわ」
「? わかりました」
「話は逸れたが、まぁ、なんというかだな」
好き勝手荒く抱ける女に飢えたことはなかったのでその辺はもう満たされて切っていて、なまえ相手に野性の暴発をはなっから求めてはいない。それ以上に、柄にもなく愛でていたいなどと慈悲染みた住民がほざくのだ。
「俺も手前が大事なんだよ」
燃え盛る恋より静やかで凪いだ親愛だったが、両面を併せ持つことに違いはない。抉り取ってまで掌握するぐらいなら、小鳥同士のくすぐり合いっこで結構だ。甘美な部位だけ喰い散らかして、屑篭に投げ入れるような真似はしたくは無いから。


2018/04/04

- ナノ -