短編

コンビニぐらい気軽にキルユー


月永レオの馬鹿野郎。変態。変人。恥じらいという単語を知らないのか、あの人は。
荒く踏み鳴らす床、靴音と共に叩きつけられる罵詈雑言はとても綺麗とは言えたものではない。
一学年上の彼と遭遇したのは今しがたの出来事だ。神出鬼没のあの人とばったり、なんて普段であれば考えられない幸運であるけれど、それもそのはず彼は一つの場所に留まらねばならない状況下に置かれていたのだ。着替え、である。いや、だが、しかし。普通脱ぐか。教室であれば百歩譲って見逃すとして、外で堂々と、なんてあり得ない。考えられない。デリカシーをどこに置いて来た。私が逆の立場であれば絶対に無理だ。殆ど同性しか存在しないアイドル科といえど私はいる。プロデューサー業で日々忙しく忙しなく校舎内を駆けまわっている。おまけに迷子探しの達人扱いを受けるほどに探し物あるいは探し人の捜索力にも恵まれてしまっている。いやでも迷子を引き付けてしまう体質なのだ。それなのに……。嗚呼あの人にとっては私などいないも同然なのか。そう思ったら一度は静まったはずの怒りが再びがたがたと蓋を鳴らし始めて、胸中に残り続けていた苛立ちと混ざり合う。共鳴し合う。いかって件の先達を思い出すと同時に事件現場のあの瞬間までもが蘇ってしまい――剥き出しにされた体躯半分ほどの肌色が瞼の裏に焼き付いてしまってより一層離れないものになり。絶叫でもしながら頭を掻き毟りたい衝動に駆られてしまう。月永レオは余り筋肉質ではないと、そう思っていた。間違って等いなかった。だが正解とするには的から外れ過ぎていた。印象なんて所詮は個人の受け止め方で、事実は事実として衝撃と共に眼前に叩きつけられる。鍛え抜かれた肉体美、とまではいかないにしろわがままボディとはあれのことだろうか。すらりと硬いようで、柔らかくはなくって、無駄な骨やパーツが一切ない。柔弱そうな色白さなんて関係ない。アイドルとしてなら正直私の理想形。あれを前にしてはくらくらどころか何かとんでもなく重いもので頭を殴られたような気分で心臓がばくばく言うことさえ許してもらえなかった。あうあう、と言語変換がうまくいかないまま開いた口から溢れる私の声。伸ばされっぱなしのオレンジ髪が首筋に流れて鎖骨辺りから散る橙の一筋が嫌に色めいて見えて、こちらに気付いて向けられた双眸とかち合えば気まずさは絶頂。行き場を無くした視線をふらふら彷徨わせた先が引き締まったえろい上半身とかどんな不運だ。そうしてこうして舞い戻ってくる今この瞬間、眼の奥の奥にちかちかと胸板がフラッシュバック。

あぁもう!!

「レオ先輩の馬鹿――――っっ!!」


2017/01/10

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