短編

プラネタリウムを閉じ込めた瞳が揺れる


まず、遺伝子だろう――。
誰も彼もに備わっていて、かたちづくっていて。けれど一人一人が異なる情報を抱えている。あなたはほかでもないあなたなのだ、と存在を証明してくれるもの。
ほかに私の脳裏に閃く限りで列挙するならば、指紋、声紋、耳紋……骨格や歯もまたこれらに準ずるだろうか。

「目もそうだったはずだ。虹彩の模様は人によって違ェって話だ」
「あ、そっか! 虹彩認証できるくらいだもんね」

解決! すっきり! とばかりに、ぽふんっと手を打ち鳴らす。
なんとはなしにそれまでの話相手だった轟君の相貌に視線を移ろわせると、彼も私同様に虹彩の真偽を確かめるつもりだったらしく、あ、と思う頃には目がぶつかっていた。見つめ合うことになったのも、話題の延長線上に伸びていた道を歩き出し始めたというだけだ、と。自身の胸に語り聞かせてはみるものの、仄かな痒みがやまない。

「お前の目はそんな色だったんだな」
「普通だよ」

私の目なんぞありきたりな色をしている。使い古されていて、あっさりと消費され捨てられていきそうな、そんなありきたりさが眼窩にごろっと収まっている。
けれど轟君のような左右で異なる色彩の持ち主は――轟君は、他にはいないのだ。

「みょうじのは光が入ると淡く見える」
「えっ」
「……まばたきされるとよく見えねェ」
「ご、ごめん」

はじめこそ緊張の存在感も淡いものだったけれど。まばたきの増加量を指摘されると、かえって慌ててしまい、さらにしぱしぱと繰り返してしまう始末だ。少年に追い掛け回される蝶々みたいにばたつく睫毛が、轟君の視線を遮る。

「ドライアイなのか?」

頓珍漢な轟君にくすりと笑う。否定する気も笑えば笑うほどに失せていき、心臓も肋骨の奥でやすらいだ調べを奏でるようになった。
平気だよ、と私は笑うと、彼の瞳孔を囲う彼だけの形状の虹彩をまた確かめようとする。

「ちょっと照れちゃっただけだよ。でも私も轟君の虹彩観察してると存外気にならないね」

まっすぐ、まっすぐ、愚直に見つめあう私達。なにせ誰かの瞳をこっそりと盗み見ることは難しいのだ、正面からの正攻法で臨むしかない。
それにそう、彼に告げた言葉も嘘ではなくて、きれいな色の虹彩を記憶に刻むことだけに力を注いでいれば、緊張感の霞など晴れてしまう。

――不意に、峰田の、まるで奈落の底から私たちを穿つかのような、疎ましさと妬みに満ちた眼差しに気づく。静かなる横やりである。「公然での見せつけ反対」とだけ、呪詛さながらに吐き捨てると峯田は姿を消した。


2020/06/07
#今日の二人はなにしてる #shindanmaker(831289)

4ねんめにして夢小説でも君付けにしてみることに致しました〜!轟焦凍君!

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