「それでも俺がいいんだろ?」





※帝光。
※「俺」「青峰」呼びの赤司様。
※ゲス峰。








愛情はある。
それは嘘じゃない。
これ以上ないくらいに、俺はこいつを愛している。



「あ……っ」



ただ、正しい表現方法がわからないだけなんだ。
(というより、寧ろ。これが俺にとっての正しい愛情表現。)
端正なその顔を、苦しそうに歪ませること。
まっすぐな気持ちを、鼻で笑ってやること。
俺だけが知っている乱れた姿を、網膜に焼きつけること。



「は、ふ…っ」
「もっと鳴けよ、つまんねーだろ」
「っや、ア、あお、み、ぁん…っ!」



朝の光が差し込む明るい部室、制服姿の俺と、ジャージの赤司。
今日は朝練のある日だ。「いい加減朝練出てきてよね!」とさつきが部屋まで来て騒ぐもんだから、仕方なく朝早く家を出た。(こういう時、幼馴染っていうのは面倒だ。)
さつきに連れられて部室に来た俺を見て、一番驚いたのは赤司で、そして一番嬉しそうな顔をしていたのも赤司だった。
その顔に、欲情した。それだけの話だ。



「っもう、練習、行かないと…」
「あ?お前、こんなんであいつらの前出られんのか?」
「ひっゃあ!あっ、痛ぁ…ッ」
「すげ、完勃ち。朝練中だってのに、変態だな」



ロッカーに押しつけた赤司の下腹部を膝で押してやれば、硬い感触が伝わってくる。それを指摘して喉で笑ったら、震えながら悔しそうに涙を零す。たまんねえ。
(今頃体育館では、部員がそれぞれにストレッチをしている頃だろうか。さつきのホイッスルが鳴り響いて、黄瀬はテツに纏わりついて、緑間と紫原はきっと赤司を探してる。)
まさか、天下無敵と噂される主将様が、練習の最中にこんな風に犯されてるなんて知りもしないで。



「ぁ、や…っお前、こそ、練習の為に来たん、は、だろ…っ」
「勿論そのつもりだったぜ?でも、赤司があんまり嬉しそうな顔してたからよ」
「ッ、し、してな…っ」
「つい、泣かせたくなった」



(おかしいよな。)
愛してるのは本当なのに。
笑ってるところを見れば見るほど、その顔を歪ませたくて、泣かせたくて仕方なくなる。
プライドぶち壊して喘がせて、それでも俺に縋ってくる赤司が見たくて。
今だって、そうだ。唇を噛みしめて俺を睨みつけながらも、両腕で抱きついてくる赤司を見て、胸に込み上げてくるのは間違いなく「愛情」だった。



「あ、っぁ!青、峰…っふ、あ、ぁあ…ッ」



Tシャツの中に手を突っ込んで、ぴんと尖った乳首を爪で潰した。痛いくらいの愛撫のはずなのに、赤司の唇からは甘ったるい声しか聞こえてこない。
(好きだから虐めたい?まるで小学生ですね。)いつか、テツに言われた言葉が蘇る。否定はしなかった。その通りだと思ったから。



「っあ、ん…っあおみ、ね、俺、もう…っ」
「限界、か」
「ん…っ!う、ん…っいき、た、」



耳元で低く囁いた。赤司が一番好きな声で。ぴくんと肩を震わせて、熱っぽく俺を見るその表情は酷く扇情的だった。
扇情的だった、けど。
だけど、それだけだ。
虐めたい、という気持ちに、何かしらの変化があるわけでもない。



「そ。じゃあ、やーめた」
「は…っ?」
「んだよ、その顔。やめて欲しいんじゃなかったっけ?」
「…っ!」
「ほら、とっとと体育館行けよ。朝練終わっちまうぞ」



赤司が果てる寸前で、性器を刺激していた指を外した。ついでに、密着させていた体も離した。ロッカーの前には、抵抗する力も奪われた赤司だけが残される。
先走りで汚れた手を拭きながら時計を顎でしゃくったら、普段は澄ましている顔が「どうして」と言いたげにぐしゃりと歪んだ。
(ああ、ぞくぞくする。)



「じゃーな。俺、屋上で寝てくっから」
「っま、待て青峰、なんで…っ」
「わかんねえの?もうお前に興味ねえってこと」



はあはあと呼吸を乱して、これ以上なく哀しそうなその表情を目に焼きつけて、俺は一人で部室を出る。
ぴしゃん、と引き戸が閉まるその音は、まるで赤司にトドメを刺すかのようにやけに絶望的に響いた。
にわかにざわつき始めた学校、その中で静かに沈んでいるような部室棟を歩きながら、きっと今頃床にぺたりと座りこんで泣いているであろう恋人を想う。
もっと痛々しく泣いて、もっと強く俺を求めてくれ、と、殆ど祈るかのように。






青空の下の屋上、結局俺は昼休みまで眠りこけてしまった。
うるさいくらいに賑やかな廊下を歩いて教室に戻れば、晴れだというのに傘を持った緑間に説教を食らうはめになった。なんで俺はこいつと同じクラスになっちまったんだろう。



「サボるのもいい加減にしろ、青峰」
「あーはいはい。つーかその傘何」
「ラッキーアイテムに決まっているのだよ」
「あっそ…ふあ」
「全く、結局朝練も出なかっただろう…赤司が心配していたぞ」
「…へえ、赤司が?」



その名前を聞いて、俺は隠すこともせず唇を釣り上げる。
(心配してただって?俺がいなくなる寸前まで一緒にいた癖に、何言ってんだよ。)
大方、今朝の出来事を取り繕う為に心配してるそぶりを見せたんだろうけど。澄ました顔を必死で作っている赤司を想像して俺はくつくつと笑う。全く、健気なこって。



「…?青峰、何がおかしいのだよ」
「や、なんでもねえ。放課後はちゃんと出るって言っとけ、主将サマに」
「今度はサボるなよ」



最後通達のような緑間の言葉に右手を上げて返事をし、一度教室から出た。ずっと寝ていたせいか酷く喉が渇いている。
そしてその途中、予想外の出来事に遭遇した。
同じクラスの、すらりと背が高い茶色い髪をした女。それなりに容姿が整っていて、男ウケも悪くはないその女が、俺をつかまえてこう言ったのだ。



「桃井さんとはなんでもないって聞いたの。もし、それが本当なら、私と付き合って?」



まるで予想外の出来事だった。
俺にとってその女はクラスメイト以上でも以下でもなかったし、そんな風に見られているとは思ってもいなかったから。
恥ずかしそうに頬を染めて、くっきりと化粧を施した目で俺を見上げる。その確信犯的な仕草を見ながら、俺は心の中で首をすくめた。



「あー…え、っと」



(確かにさつきとはただの幼馴染だけど。つーかなんでろくに口きいたこともねえのに付き合えとか言えんの。)
溜息を吐きながら、殆ど呆れた。
容姿は悪くないし、多分昔の俺だったらOKしていたと思う。でも、今の俺には赤司がいる。例え愛情表現が小学生並みだと諭されようと、俺があいつを愛しているのは疑いようのない事実であって。



「わり、俺いま、」



部活のことで頭いっぱいなんだわ、とありがちな言葉を口にして断ろうとした、その時だった。
俺達がいる校舎と並んだ、隣の校舎、同じ階。丁度横に並んだ窓の向こうに、見慣れた赤色が見えたのは。



「……っ!」



勿論、声も音も聞こえない。だけど俺にはわかった。赤司が、俺が告白されているのを見て、不安そうに息を飲んだこと。
女に怪しまれないように、すぐに窓から視線を外す。でも赤司はこちらをずっと見ていた。背中越しに刺さる視線を感じながら、女の細い肩をそっと抱き寄せる。



「きゃ…っ」
「わりーけど、付き合うのは無理。これだけで勘弁してくれ」



抱き寄せた肩口で低く囁けば、茶色い髪がはにかむように揺れる。そして、それならいいの、と小さな声で言った。(正確には、言わせた。)
いきなり抱き寄せられて彼女は驚いたようだったけれど、満更でもなさそうな顔のまま駆けていく。短いスカートをひらひらとはためかせて。



「……」



一件落着、と思いながら、一人で取り残された俺は再び窓を見る。
当然かも知れないが、そこにはもう見慣れた愛しい赤色は見つけられなかった。頭上から、昼休みの終わりを告げる間抜けなチャイムの音が降り注ぐ。
騒がしく教室に戻っていく生徒の波に流されながらも、頭に思うのは放課後のことだけ。緑間との約束を重視しているわけではないけれど、部活にはちゃんと出ようと今決めた。
(俺を女にとられると勘違いしたであろう、あの主将サマが。一体どんな反応を見せてくれるのか、今から楽しみだ。)






文句を言うか、怒るか、はたまた泣くか。
赤司の反応はそのどれかだろうと思っていたけれど、放課後、俺の眼前には今そのどれにもあてはまらない情景が広がっている。



「んっぅ…っふ、」



部活の前、赤司に呼び出されて入ったのは部室の近所の空き教室。
薄暗い教室の中、机に腰掛けている俺と、床に跪いて俺の下腹部に顔を埋めている恋人兼主将サマ。
(一応言っておくが、咥えろ、と命令したわけじゃない。赤司がいきなり俺のベルトに手を掛けてきただけだ。まるで、行かないでと縋るかのように。)



「ちゅ、っふ…っ…」
「あー…最高だわ」



褒めるように甘く言って、赤い髪を撫でてやる。すると赤司は本当?と言うように上目遣いで俺を見た。
その顔が、やっていることとは裏腹に子供っぽくて。ギャップにあてられたように、咥えられているそれがぐんと質量を増した。



「っは、なぁ…青峰」
「あ?」
「さっきの…昼休みの、ことだけど」



(きたか、本題。)
唾液で濡れた性器を、今度は手で愛撫しながら、言いにくそうに赤司が言う。
こいつ、フェラに比べて手はあんまり上手くねーんだよな。なんて少し不満に思いながらも、赤司の言葉の続きを待った。



「おー、なんだよ」
「あれ…一体、なんだったの」
「告られてた。変な女もいるもんだよな、さつきとなんでもねえなら自分と付き合えとか言ってきやがって」
「っそうじゃない!抱き合ってた、だろ」
「……ああ」
「しかも、お前の方から…なんで、あんなこと」



俺がいるのに、と言いたげな、不安そうな顔。ぞくぞくした。堪らない、と思った。
そして同時に、こんなこともわからないなんて頭いいふりしてこいつはきっと馬鹿なんだろう、と呆れてしまう。今にも爆発しそうに強いこの気持ちが、伝わらないなんて。



「つーか、そんなんどうでもいいから咥えてくんね」
「どうでもよくない…っ!お前は、俺の、こと」
「…あー、うっぜ」



そう思ったのは半分本心だった。俺のことどう思ってる?なんて、この世で一番くだらない質問だ。
説明なんて、必要ない。だって、だってこんなにも強く、愛してるのに。



「いいから咥えろよ。そうじゃねえと下に突っ込むぞ」
「ん…!んっぅ、ぅう…ッ」



真っ赤な後頭部を力任せに掴んで、肥大した性器を無理矢理口に突っ込む。喉の奥まで一気に。
赤司の口に対して咥えさせたそれが許容範囲オーバーなのは火を見るより明らかで、赤司は苦しそうに涙を滲ませて抵抗する。それでも、喉を突く力は緩めなかった。



「っは…もっと締めろよ、全然よくねえ」
「…ッん、む、んぅ…」
「どう思ってるかって?教えてやろうか?」



(どうせお前だって、もう気づいてるんだろ?)
今だって、俺を繋ぎとめるために、縋るように咥えてきたのはそっちなんだから。
この暴力的な性交が、俺の愛情表現だって、お前も意識のどこかでは気づいてるんだ。
だから、求められたら嫌がらない。体で俺を繋ごうとする。それが一番効果的だと、知っているから。



「愛してるよ、ちゃんと」



低く囁いたその直後、赤司の口から引き抜いて、頬に向かって吐き出した。美しい真っ赤な髪に白濁が絡みつく光景は酷く卑猥だった。
予告なしに顔射されて、目を白黒させている表情は確かに愛らしかったけど、それじゃまだ足りない。もっと、もっと。
焼けつくような熱に促されるまま、バッシュで赤司の下腹部を踏みつぶす。痛みに悲鳴を上げたけれど、彼は、そのままジャージの中で射精した。



「は、ぁあ…っ」
「…お前、どこまでマゾなんだっつの…」



まさか、踏んだだけでイくとは俺も思わなかったし、赤司本人もそんな自分の体に困惑を隠せないようだった。恥入るように体を丸めて、子供じみた声でぐすぐすと泣く。
ぐしゃぐしゃになったジャージ、赤と白のコントラスト、涙でとろけたオッドアイ、青峰、青峰と俺を呼ぶ、プライドも威厳もどこにもない弱々しい声。



(…あー、やべぇな。)
喉がごくりと鳴る。隠しようもなかった。
今、俺の目の前にいる赤司を、世界で一番、可愛いと思った。



「やっぱり最高だな、お前」
「っばか、ばかばかっ、最悪だ…っ!」
「へえ、でもよぉ」



小さく丸まっているその肩を、強く抱き寄せて。昼休み、女にやったよりもずっとずっと乱暴に。
ぐすぐすと泣いている顔をじっと見て、命令に近い愛の言葉を囁く。うっとりと、溶かすように甘く。二人で手を繋いで落ちていくために。





「お前は、それでも俺がいいんだろ?」





とろけたオッドアイから、涙がひとつ零れて。
赤司が頷いたような、そんな気がした。










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