「糖分足りてない所為だから」




※帝光。
※がっつり裏なのでご注意を。







自分勝手にも、程があると思う。
誘ってきたのはそっちの癖に。



「赤ちん」
「何……んっ」



最初は、目元に降ってきた唇だった。ちゅ、と押しつけられたそれはとても優しくて、情欲というより親愛を感じさせるものだったから気にもしなかった。
(部活のない休日、良く晴れた空、ふたりきりの僕の部屋、敦の腕の中。)
そんなゆったりした状況に、僕は完全に気を抜いていたんだと思う。



「赤ちんの目って、いちごの飴玉みたい」
「そうか?それなら、敦の目はぶどう味だね」
「んー?俺は、いちご味だけでいいかな」



僕の体を後ろから抱きしめて包んでくれている敦は、大きな体を屈めて何度もキスをする。
僕だって敦が好きだから嫌がる理由なんかないし、目元に触れる感触が心地よかったのも事実で。
手に持っていた文庫本を閉じて、ゆっくり目を閉じた、その時だった。



「あつ…んっぅ!」



大きな手が、僕の肩をがっと掴んで。そのまま唇を塞がれた。いきなりのことで抵抗らしい抵抗さえままならない。
さっきまでとはまるで違う、僕の熱を煽るようなねっとりとしたくちづけに、頭がぐらつく。苦しい。敦の肩をいくら押し返しても、びくともしない。当然だ。



「ん…っちゅ、」
「ふ、あ…っ…は、なん、だ」
「目がいちごなら、唇はさくらんぼみたいだなって、思って」
「は…っ?」
「美味しそうだったから、食べちゃった」
「っちょ、敦、待っ…!」
「もっと食べていー?」



(ま、駄目って言われても食べるけど。)
敦は僕の答えも聞かずに唇を舐めながらそう言って、横のベッドに僕を乱暴に押し倒す。
ぶどうみたいな、アメジストみたいな色をした敦の目には確かに情欲が宿っていて、そんな恋人を見上げながら僕はただ混乱するしかなかった。(だって、さっきのキスからなんでこうなるんだ!)



「ぁ、あつ、し…っ」
「何?そんなかわいー顔しちゃって」
「…明日、朝練ある、だろ」
「そだね。だからやめろって?」
「…だから、優しく、しろ」
「……っ!ちょ、赤ちん今の反則じゃね…」



普段は覇気のない目を、驚いたように見開く。僕は敦のこの表情が堪らなく好きだ。僕だけが知っている敦のような気がして。
おもむろに覆いかぶさってくるその体に、ゆっくり腕を絡ませる。
(抱き合うのは別に、嫌じゃない。ただ、いきなりのことに驚いてしまっただけで。)そんな気持ちを腕で伝えたつもりだった。まあ敦は、僕がどう思っていても行為をやめようとはしないだろうけど。



「そんなかわいいお願いされたら、止まれねーし」
「っふ、どうせ止まるつもりないんだろう?」
「…さっすが赤ちん、俺のこと、なんでも知ってんだねー」
「ン…っ!」
「俺もちゃんと知ってるよ、赤ちんのこと。赤ちんが、ここ、気持ちいいってこととか」



するり。大きくて骨っぽい右手がシャツの中に侵入してきて、胸の突起を親指で押した。
その途端背中にぴりっと独特の感触が走って、それと同時にそこが既に膨れていたことを理解する。理解した途端、顔が熱くなった。(まだ、キスしかしていないのに、)



「唇もだけど、こっちもさくらんぼみたいだね」
「ひ、っん…なに、言って、あっ!」
「食べてあげる…ん、あまぁ」
「っば、か、そんなわけ、な…っや、ん、吸っちゃやだぁ…ッ」



目と同じ、きれいな紫色。
敦が突起に吸いつく度、ぶどうみたいな、アメジストみたいな色をした長い髪が僕の肌を焦れったく撫でていく。(この感触も、堪らなく、好き。)
ちゅうちゅうと吸うそのやり方はどこか幼くて、まるで赤ん坊か子猫のようだったけれど。
それでも快楽を拾えるくらい、僕のそこは性感帯として成長しているらしかった。そう思うだけで腰の裏側がじくじくと熱くなる気がした。



「は、っぁん…あつ、ア、あつし…っ」
「赤ちん、声えっちぃ」
「ッ…!だ、だって、ぁあ…っ」
「おっぱい、そんな気持ちーの?こっちは?」
「っひゃ、ぁ!そ、そっちだめ…っ」



胸に吸いついた唇はそのままに、敦の右手がゆっくりと降りて。ジーパン越しに撫でただけで、僕の下腹部からはくちゅ、なんて耳を塞ぎたくなるような音がした。
上半身への愛撫ですっかり興奮した僕に気を良くしたのか、敦がにやりと笑う。その顔を見て、またぞくぞくした。唇から零れる吐息が酷く熱い。



「脱がすから、腰浮かせて」
「ん…っ…は、敦、はや…く」
「…もー、いつかそんなえっちになっちゃったの?かわいいけど」



耳元でそう囁く敦の吐息も熱くて、それが嬉しかった。僕は彼の肩に回した腕にぎゅっと力を込める。
カチャカチャとベルトを外すどこか物悲しい音がして、下半身を寒気が襲う。でも、そんなのはすぐになくなった。簡単なことだ、物理的な寒気なんて凌駕する程の快楽に、包まれたから。



「あ、っあ…!やぁ、ぁつ、あつしぃ…ッ」
「もうとろとろ。イっちゃいそ?」
「っうん、ぼく、もぉ…っ」



(イきたい、イかせて、敦の手で気持ちよくして。)
必死で敦の肩に抱きついて、呼吸と目線でそう伝えた。伝わった、と思った。
それなのに、この馬鹿は、この菓子馬鹿は。



「…っわ!あつ、し…っ?」
「……あー、赤ちんごめーん、燃料切れ…」
「っはぁ!?」
「糖分、足んねーみたい…」



いきなり僕の上に覆いかぶさってきたと思ったら、すっかり元気を失くした声でそんなことを言う。
当然、膨らんだ性器を愛撫していた手も外してしまっていて、吐き出す寸前だったそれは助けを求めるように震えていた。
覆いかぶさってきた体は重いし、イきたいし、言葉の意味も良くわからなくて、とりあえず敦の背中を思い切り叩く。腰の内側でわだかまった欲が熱くて死にそう。



「なに、何があったんだ、敦…っ」
「お菓子食べたいよ、赤ちーん…」
「っそんな、いきなり言われても、無理だ…僕の家にお菓子のストックなんてないよ」
「じゃあ、続きするのむり…」
「は…っ?」
「仕方ねーじゃん、糖分足りてない所為だし」



僕の肩口でもごもご言い訳する敦を引っ叩いてやりたくなった。さっきまであんなギラギラした、やる気十分ですって顔で僕を見ていたくせに、何でいきなりそうなるんだ。
(自分勝手にも、程があると思う。誘ってきたのはそっちの癖に。)
だけど、どれだけ叩いても文句を言っても、敦の糖分切れは回復しないらしく。だるそうに僕の上から退いて、ベッドに倒れ込んでしまった。その大きな背中を見て絶句してしまった僕は悪くないと思う。



「…っは、敦、本気なの…?」
「んー…」
「……ッ」



(ギリギリまで高められた体が、熱い。苦しい。)
今すぐ服を着て敦の燃料であるお菓子を買いにいくか、恥を忍んで自分で触るか。
考えるまでもなく、答えは出ていた。
このまま放置するなんて、僕はとても我慢出来ない。僕の体は既に『そう』なってしまっている。敦に、そういう風に、作りかえられた。



「ぁ、あつし…」
「だから、言ってんじゃん…俺、動けねーし」
「っいい、よ、お前は寝てればいいから」
「は…っちょ、赤ちんっ?」
「全部、僕が、勝手にやるから」



うつ伏せで横になっている敦の体を、力づくで仰向けに転がして。
裸に剥かれた脚で彼の腰の上に跨る。はあはあと、荒くなった呼吸のまま。
敦は僕の行動に驚いたみたいで口をぱかっと開けてるけれど、そんなの気にしてられない。とても。



「っあ、ん…っ…!」
「…っちょ、何してんの…」
「み、見れば、わかるだろ…っは、お前が、して、くれないから…っ」



ぶどう色の視線を全身に痛いくらいに浴びながら、右手で張りつめた性器を擦り上げる。くちゅくちゅと音が響くくらいに強く、何度も。
自分でするのなんて久しぶりだし、しかも、敦に見られながらの行為は堪らなく興奮した。敦のよりずっと細い指が敏感なところを擦る度、先走りと涙が滲む。あんまり気持ちがよくて。



「ひ、ぁっ、あん…っあつ、し、ア…ッ」
「ッ…赤ちん、やば」
「んっは、あ、や…っも、ぃく…っ」



敦の、驚いたような、困惑しているような表情を眺めながら、気持ちいいところを擦って、自分で果てた。
(おかしいな、自慰するなんて、虚しいはずなのに。)ぶどう色の視線に刺されているせいなのか、果てたのに熱が収まってくれない。まだ、したい、全然足りない。



「ふ、はぁ…っまだ、足り、な」



うわ言のように呟いて、精液で濡れた指をそろそろと後ろに持っていく。後処理の為に指を入れたことはあるけど、快楽を得る為に自分で触るのは初めてのことだった。
敦は変わらずぽかんとした顔で僕を見上げている。心臓がどくどくと脈打って、うるさいくらい。その視線も心臓の音も今は興奮材料、なんてのは、死んでも言うつもりはないけれど。



「赤ちん、マジどうしちゃったの…」
「どうした、は、こっちの台詞だ…っぁ、あっ」
「知らなかったんだけど、赤ちんが、こんなにえっちだったなんて」
「っちが…っおまえが、途中で、やめる、から…ふ、はぁ…ッ!」
「最初は、あんなにやだやだって言ってた癖に」



(ぞくぞく、ぞくぞく。)
敦がいつものまあるい声で僕を揶揄する度、なんとも言えない熱が体中を駆け抜ける。それがもっと欲しくて、怖々とナカに押し込んだ指を2本に増やした。
精液の滑りを借りてぐちゃぐちゃとナカを擦れば、段々体液が滲んできて。堪らない。後ろを自分で弄ることも、敦に見られていることも、敦の言葉も、全部。



「ふっあ、なか、とろとろ、って、んん…っ」
「んー?ナカ、溶けてきちゃったの?」
「は、はぁ…っふ、ん…っきもち、い…っぁ、んッ」
「…あ、こっちもだね」
「え…?」
「いちごの飴も、溶けちゃいそうじゃん」



笑みを含んだ声で敦は言って、骨っぽい指で僕の目元をそっと辿る。涙や汗で僕の顔はもうぐちゃぐちゃだったけど、敦はそんなこと気にせず愛しそうに触れてくれた。
(やっぱり、自分の指じゃ、)
敦に触れられた感触が嬉しくて、100年越しの接触に思えたくらいに嬉しくて、胸の中でわだかまっていた感情が一気に弾けた。
気持ちいい、気持ちいいけど、やっぱり駄目だ。敦のこの、高い体温に触れてもらわなくちゃ。



「っちょ、赤ちん!?」
「さっき言った通りだ、僕が勝手にやらせてもらう」
「で、でも…っん…」
「…っは、なんだ、勃ってはいるんだな?」



(燃料切れじゃなかったの?)僕はにやりと唇を釣り上げて、敦を見下ろしながら低い声で言う。
ベルトとジーパンを緩めて取り出した敦のそれは十分な硬さを持っていて、思わせぶりに撫でればどくどくと脈打った。触れているだけで、さっきまで弄っていた入口が疼くような気がした。



「だって、仕方ねーじゃん…赤ちんが、」
「…僕が?」
「赤ちんが、かわいいんだもん」



ぷう、と頬を膨らませた敦を見て僕は心の底から思う。かわいいのは一体どちらだと。
真昼の光を受けて、透けたように輝くアメジストの髪にそっと指を通す。そのまま額にキスを落として、入れるぞ、と小さく囁いた。
もう、我慢の限界だった。



「ん、っくぁ…っ」
「ッ…赤ちん、きっつ…」
「っあ、なんで、こんな、おっきいの…っあ、敦、のっ」
「…っちょっと、もー!」
「ひ、っや!また、おっきく…っは、あッ」



赤ちんのせいだし!って敦が喚いている声も、右から左に抜けていくばかり。
欲しいのに、今すぐ欲しいのに、体格に比例するように巨大な敦のそれは、なかなか僕のナカに入ってきてくれない。
深く息を吐いて、腰を落としても、上手くいかない。まるで敦が僕に入るのを拒んでいるようで、『続きするのむり』と言われたことが勝手に蘇ってきて、涙が滲む。



「ふ、ふえ…っ」
「え…赤ちん、なんで泣いて」
「だって…あ、あつし、どうせ、僕のことなんて…っ」



大して好きじゃないんでしょ。
お菓子の方がいいんでしょ。
本当は触りたくなんかないんでしょ。
いろんな言葉が溢れてきたけれど、涙のせいで喉のあたりでつっかえてしまう。
もどかしい。敦が好きで、触れて欲しいのは敦だけなのに、上手くいかない。欲しいのは快楽じゃなくて、他でもない敦の体温なのに。



「…ああ、もうっ」
「ふぇ…っわ、ちょ…っぁあンっ!」
「いい加減、限界だし」
「ま、って…なんで、な…っは、あ、ぁあ…ッ」
「折角赤ちんが頑張ってくれてるから、俺は受け身でいようって思ってたのに、さ」



(泣くとか卑怯じゃね?)
敦は唇を尖らせながらそう言った。でも、いきなり下から貫かれて、奥をぐりぐりと抉られている僕には言葉の意味が理解出来ない。
大きな手に腰をがっちり掴まれて、熱くて愛しい性器にいいように翻弄される。シーツについていたはずの腕からも力が抜けて、敦の胸に倒れ込んでしまった。それでも、僕を揺さぶる力が緩むことはなかった。



「ぁんっ、は、あ、やぁあ…っ」
「ほんとはね、やる気なんてとっくに戻ってたんだよ」
「っなんで…っだ、って、ア!おか、し、ないのに…っ」
「そんなん必要ねーし。だって、赤ちんが俺の燃料だもん」
「あつ、し…っひゃ、ぁ!だ、めっ、そこだめぇ…っぁ、あッ」
「赤ちんが俺の上に乗ってくれた時、かわいくて、もうどうしようかって思った」



ぶどう色の瞳には、気づけばまた、獣じみた熱が戻っている。それだけのことが本当に嬉しかった。
(お菓子がなくても、僕だけでいいって。)
くだらないと、わかっている。自分でも笑ってしまう。だけど、敦の言葉が涙が出るくらい嬉しいのは確かだった。疑いようのない事実だった。



「だから、最後まで見てたかったんだけど、ねー」
「ば、か…っ敦の、ばかぁ…っんっあ、あっ」
「赤ちんの泣いた顔は、流石に嫌だったから」
「ん、は…っぁ、あつ、敦…っ」
「だって、いちごの飴、溶けちゃったら勿体ねーじゃん?」



こんなに美味しそうなのに、と敦は悪戯っぽく言って、前立腺を抉るように突き上げてきた。何度も何度も。
その度に腰が浮きそうになるような快感に襲われて、でも固定されているから動けなくて、逃げられなくて、ただ犯されるだけ。そんなことが幸せだった。
(だって、ずっと欲しかった、敦の体温だから。)



「っあ、あつ、しぃ…っだめ、もぉだめ…っ」
「いいよ、っは、一緒、ね?」
「んン…っあ、敦、すき…っひ、ゃああ…ッ!」
「俺も、大好き」



敦は最後、鼓膜に吹き込むようにそう言ってくれて、その声がきっかけで僕は吐き出した。白濁が、僕と敦の体を半分ずつ汚す。
途端、いつもの性交の数倍もの疲労に襲われて、敦と繋がったままベッドに力なく倒れた。頭も視界も、ぐらぐらと揺れてる。



「っは、はー…っ…」
「あららー?赤ちん、もう限界?」
「当然、だろ…って、まさかお前…ッ」
「ごめん、俺、まだ元気なんだよねえ」



(だって赤ちんが俺の糖分だしー。)
言い訳みたいにそう言って、でも少しも悪びれた様子もなく敦は僕の上に圧し掛かってくる。さっきとは逆、正常位の体位を取らされて、思わず背筋が冷たくなった。



「大丈夫、動けなくなっちゃったら、俺が赤ちんの燃料になってあげるから」
「そういう問題じゃない、ちょ、あつ…っあ…!」
「もうちょっと頑張ってねー」



途中、いきなりやる気をなくしたと思ったら、今度はこれだ。
溜息を吐く暇もなく、今度は上からガツガツ揺さぶられて、さっきとは別の快楽にあっさり突き落とされる。
(自分勝手にも程があるよ、全く。)
でも、そんな敦に苦しいくらい溺れてしまっているというのは、疑いようのない事実、なんだけど。










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